彼女はもともとⅣ (ページ10)

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理想と現実のギャップページ10

「落ち着きました？」
『…』

落ち着いた、と言う代わりに掴んでいた服の裾を離す
空は掠れた白いペンキでビーッと線を引いたような

そんな空。

『私、怖いの。
何が怖いかって、多分、心が擽ったかったりするのって幸せでしょう？
私が幸せになっていいの？怖いよ。』

妹を不幸にして、私が幸せになる。
そんなことあって良いわけ無い。

彼は黙ったまま静かに私の話を聞いていた

「…ごめんなさい」

彼は何かに謝ると私の手を握った
冷たい手が、どこか懐かしい気がして

「Aさん、幸せになりましょう。」

ただ彼はそれだけを呟いた。

『……』

断らなきゃ。

何故か頭でそう考えてしまう。

本能的に幸せになれない
幸せになってしまったらだめだ
それよりも

彼と幸せになれない

と感じてしまった。

『…ごめんね、イソップ君』

一度涙腺を崩壊してしまえば小さな事で泣いてしまう

はて、流れる涙は何故なのだろうか。

何が悲しいのがわからず仕舞いだ。

止めどなく流れる涙に恥ずかしくて手で必死に拭う

彼はそうですか。と私の目をこする手を止めた

「傷つきますよ」

一通り泣けば疲れる。
ニコニコと笑うその顔が、少し辛そうに見えて
寄り添ってあげようと言うところで彼はそれまで下げていた目線を上に上げ私と目を合わせた

「独り言ですが」

と彼は大きな声で私をみた。
珍しい。彼が大声を出すなんて。と客観的に見ていた

「貴方を好きでしたよ。今も、昔も」

行ってくださいと彼は私の背を押した。

(「幸せで、僕の姫様」)

押された反動でバルコニーのドアに手をついた
彼が何かを言っている

(「貴方が僕を嫌ってくれたら」)

ひゅーっと隙間風の音がして、よく聞こえない。

『イソップ君？なんて言ってるの？』

(「どんなによかっただろうか…」)

彼は答えることはなく、ニコニコと笑いながら私に手を振った

ぱっとしないいつもの空に、ぱっとしないバルコニー
そこに一人で立っている、ぱっとしない物達からしたら異様な人工物のような美しい彼が

わたしのことを見ている。

(あ、あの目だ。)

イライが私のことを見てるときの
あの目で見ている。

『……イソップ君…？』

「はい、Aさん」

彼との距離が
開いてしまったような

そんな気がした

「幸せにならないと、幸せになるべきなんですよ、あなたは」

貴方が何を知ってるの？

昔の殺人鬼の(小さかった)私なら
きれい事を言いつつも神を信じなかった私なら

きっとそう言っていただろうと目を伏せた