彼女はもともとⅣ (ページ37)

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意中の人。ページ37

『……イライ』

自分から部屋を訪ねるのはなんだかんだ言って３回目だ。

あれだけ私は彼のことを愛していたのに
変な意地が私をこの部屋に近づけさせなかった。

こんこん、と控えめにノックするのには理由がある。

『……イライ、いる？』

と、聞くのにも理由がある。

『…寝てたらごめんなさい』
「…寝てないよ、おはようA」

どうしたの？と私を部屋に招き入れる彼の顔は、ひどく狼狽えていた。

『眠たそう、寝ててよかったのに』
「君が来るのが見えたからね」

いままで、ここに来た理由が天眼で見えていると思っていた。

でも、彼も理由まではわからない。

『イライに話すことがあるの。』

キスから始まり、過度なスキンシップ
私を護ろうと動くところから
こうやって、私を愛おしそうに見ること。
全ての理由がわかった今、彼が愛おしくて、好きで触れたくてたまらない。

『私は、契約を交わしたの。』

息をのむ声がした。
部屋の中で、彼の“占い師”という職業に縋り付くほど

それほど、私の未来は真っ黒だった。

「…君は、また僕の元から居なくなってしまうんだね。」

彼は、１つの否定の言葉を聞きたくて
でもそうでない私の口を塞ぐように1つ
私の口にキスをする。
じっと見つめ、私の答えを待っているようだ。

嘘つこうとも思ったが、彼は天眼持ちなので嘘は通じないだろう。

『ごめんね、ごめんなさい。イライ。』

「仕方が無い。でも、全てを捨てて僕と逃げるという運命はいかが？」

『それは良い運命ね。』

ただ、そうすることが出来ない。と言うことを彼も、私も知っていた。
悲しそうな顔をして私の距離を詰めた。

「……A、好きだよ。」

『私は、愛してるわ。』

「本当？」

『本当。』

貴方のパートナーには失礼なことをしたわ。
だって、貴方の席を私が奪ってしまったから。

もしかしたら戻れるかもしれなかった席に
今では私が座っている。

離れようとした彼の服を握りしめて、少し引っ張れば、彼は優しく微笑んだ

「キスして良いかい？」

いつも私の返事無しにする癖に。と唇を合わせた。

長いような短いような時間
舌が歯茎をなぞると力が抜けてしまい口も開く
舌が生き物のように動き私の舌を絡めると
立てなくなって彼の服を強く握るとさらに激しくなる

「…今日はこれでおしまい」

腰を砕く、と言う感覚はこれで間違いないだろう。

双方息が上がって、なんだか物足らない、その正体に気がつかないようにしていたが、今になってはそうする意味も無くなってしまった。