彼女はもともとⅣ (ページ36)

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妹ページ36

「……」

空気が変わる。
重々しい空気からすっ、と優しげな空気に。

ベッドの上の妹は目を開けた。

『貴方が私を呼んだのね。』

イソップは言葉の意味がわからなかったらしい。
しかし私の向いている方を見て、彼女の名前を呼んだ。

「ミラ。」

「………」

途切れ途切れにしか聞こえない言葉に、耳を澄ませば、彼女は微笑んだ。

「いるの？テウ」

側に行ってあげてください。もう、耳も、目も、体も機能していないけど…

側に行くと彼女がよく見えた。
目は白く濁り、胸とお腹の上下運動以外に他は微動だにしない。
延命治療のための医療機器だけが、彼女の現状を物語っていた。

言葉を喋るのも、もうすぐ出来なくなるのだろう。

「久しぶりだね、テウちゃん」

『ミラ』

目がこちらに合うことはない。

『ねぇ、イソップ。二人っきりにしてくれないかしら。』

久々に、姉弟水入らずでお話ししたいの。

姉であり、妹である彼女がそう言うと彼はわかりました。と部屋から出て行った。

ミラは、不思議と流暢に私とお話をした。

「元気だった？えぇ、見なくてもわかるわ。元気よね。」

『まぁ、元気よ。程ほどにね。ミラは見ない内に変わってしまったのね』

おもいで話から、段々ゲームの話になっていき、リッパーの刃はどうか。女王というハンターが狡くないのどうとか。

そして、話すことが無くなれば彼女は笑った。

「もう、これで思い残すことは無いわ。」

もう、テウにこの座を譲れる。
彼女は微かに息を吐いた。

『わたしも。思い残すことはもう無いよ。』

「……ねぇ、昔から私達双子は姉弟よりも仲よかったわよね。」

『えぇ、最悪な一日をどう切り抜けるかいつも考えてたわね。』

「ねぇ、憶えてる？
私が原因不明の病気をしたとき。」

『目をつぶらなくても思い出せるわ。
あの時の病気の原因は』

『「花屋の隣のパンケーキ」』

声がそろって、なんだかおかしくって、二人で笑う。
あの時、花屋の隣の幸せそうな夫婦が経営するパンケーキ屋さんの主人に恋をしてしまったのが原因でミラは体調を崩した。

それを私は、話を聞くまでも無く原因を当ててしまったのだ。

「テウは、まだやり残したことあるでしょう？」

私は、まだ大丈夫だから。貴方の想い人、紹介してね。

ミラは、再び目を閉じた

【円舞曲】

ことの真意を知れば、それで良かったのに

日記:私はすべてを知ってる。神なんかはいない。居たら妹は助かってるはずだし、燃えなかった。ベスに対して私があんなことをすることもなかった。