同族嫌悪 ページ22
「…今更何しに来たんです」
「仲直りをしに。まさかこうなるとは分からなかったけど」
ぐったりと倒れた女を彼は優しく撫でた。
ガラスの刺さっていた腕は吹き出す血もないのが静かに止めどなく流れ、腕には液体がもう入っていない一本の注射器が刺さってた。
赤の手袋を外した男性、イソップ・カールは自身の上着を脱ぎ、止血を試みた。
だんだん血は止まり、ついには流れなくなった。
「全て分かっていたのでしょう？」
「まぁね、仮にも占い師だから。」
梟が1つホゥ、と鳴いた
余裕の笑みを浮かべて、イライ・クラークは彼女に近づこうと一歩足を踏み出す。
「彼女に近づかないでください。」
「なぜ？彼女は私の恋人だ。」
余裕綽々の笑みで、彼は彼に話しかけた。
「君には代わりが居るじゃないか。」
「彼女を代わりなんて言わないでください。」
「代わりだろう？あの子はそのために来たはずだ。」
ちがう！と大声が響く。
「まぁ、どちらにせよ君は彼女を渡すことになる。」
月明かりが散らかった部屋を照らした。
淡い光に反射するガラスと、彼女は神秘的に見えた
「イライラさせるの、本当に得意ですよね。イライさんは。」
「おや、それはお互い様じゃないか。」
急に浅くはぁはぁと呼吸を繰り返し、痙攣し始める彼女。
イソップの手を弱々しく握るも、イソップは何も出来なかった。
彼は今まで
普段、過去なら、昔なら。
昔の自分なら愛おしい人ですら2本目、3本目を刺して安らかな眠りを与えたのに
「私ならダイアー先生を呼ぶことが出来る。
変な意地を張って彼女を渡さなければ、あの子の二の舞になるだろうね。」
彼は確かにそう言った。
そしてにこりと笑った。
それはきっと、彼女を帰せと言うことだろう。
「本当に最低ですよ。あなたは」
「よく言われるよ。」
「可哀想なAさん。
安らかに眠りにつくことすら許されず。」
彼はキッ、と彼を睨む。
彼にそんな確固たる意思があることは彼と、成り行きを見守る月しか知らないだろう。
「死んだなら、きっと地獄に落ちますよ。」
「どうとでも言うが良いさ。」
道を譲れば、彼は痙攣している彼女を暖めるように抱きかかえた。
愛おしそうな目で彼女を見ながら、
「……本当に最低で最悪で…」
彼女がこの先幸せになると同時に
彼にこの先不幸が訪れますように
彼は静かに目を閉じた。
目の下の水の幕が静かに下りた。
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作者名：COLOR莓愛 | 作成日時：2020年2月7日 3時
