わたしとあの人 ページ4
また、迷った。
バイト終わり、真っ直ぐ家に帰らずにいつもと違うところで買い物をした、あと。またわたしは家に帰れなくなっていた。
googlemapを睨む。最寄り駅まで行ければ帰れるのに、全然辿り着く気配がない。
「あれ、まひろやん」
スマホを睨みつけていると後ろから特徴的な声が聞こえる。
『！！』
その声の持ち主は正にわたしにとって救世主であるだるまさんだった。泣きそうになるのをぐっと堪えて彼に近付く。
「なぁにしとんの」
『……いつもより早くバイト上がれたから普段と違うところで買い物して帰ろ〜と思ったら……、う…その、道に迷っちゃって』
「あー、だからバイト先おらんかったんか」
『え？来てくれたんですか！？』
だるまさんはたまにわたしのバイト先に来てくれる。
彼と知り合ったのはわたしの幼馴染経由だったけれど、初めてお会いしたのはバイト先であるコンビニだった。
「もう買い物は終わったん？あとは帰るだけ？」
『そうです！』
「ほな、はよかえんで。うるせー奴にまた怒られる」
うるせー奴、というのはきっとわたしの幼馴染のことだろう。
え、ていうか一緒に帰ってくれるの？
『だるまさんの用事は？』
「ん？別にいつでもできることやから」
″気にすんなぁ″と頭をぽんぽん、と撫でられた。だるまさんの何気ないこういった行動がわたしの心臓を刺激する。
ーーわたしは、彼に恋をしていた。
『あ、格ゲー練習しましたよ！また対戦してください！』
「え〜？まひろよえーからなぁ」
『だるまさんが強すぎなんです！』
かの″だるまいずごっど″と肩を並べて歩く。こんなの、世界中探してもわたしだけなんじゃない？なんてたまに自惚れてしまう。
『あ、もう駅着いちゃった』
「こっからなら帰れるか？」
『…』
「まひろ？」
『か、かえれません』
「はは、嘘つくな〜？」
だるまさんともう少しいたい、けれど一緒にいれる口実なんてもうない。
『だるまさん、ありがとう！このお礼は必ずします！！』
「おーおー。期待して待っとくわ。じゃあな〜おやすみ」
だるまさんが手をひらひらと振るのでわたしも大きく手を振り返し、走って自分の家へと向かう。
名残惜しくなって後ろを振り返ればまだ彼はこちらを見ていた。
口パクできっと何かを言っていたが、遠くて分からない。
彼がこんなにわたしに優しいのは、大切な友人の幼馴染だからなんだろう。
それでも彼の優しさは、″好き″という気持ちを加速させるには十分過ぎた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 116人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：こむぎこ | 作成日時：2023年8月9日 0時
