第6話『梅雨前線』 ページ7
今日もまた俺の一日はAさんからの"おはよう"から始まる。
6月、今日は朝から雨。
ちょっと濡れちゃった〜なんて言いながらAさんは席に着く。
「スッキリしない天気だよね、」
そんななんでもない会話も、幸せで。
『じゃあ、これ飲んでスッキリしない?』
CMみたいにそう言って彼女が徐に取り出したのは、好物のソルティレモン。の…
「梅?」
『そう、この時期限定なんだよ、縁下くんに飲んで欲しくて買ってきたの。』
この前気に入ってくれたみたいだったから、ってキラキラした目で言われたら、受け取る以外の選択肢はないだろう。
「貰っちゃっていいの?」
『うん、今日も一緒に勉強してくれるんでしょ?感謝も込みで、』
そう、あのノートを見せた日から、俺はAさんと度々一緒に勉強するようになった。
勿論部活も忙しいので、予定がない日だけの限られた時間ではあるんだけど。
成「今日なんかいいことでもあった?」
そうか。成田に言われるまで気づかなかったけど朝から俺は浮かれてたのか。放課後が楽しみって思うくらい、しょうがないだろ。
「んーまあな、じゃあまた明日。課題ちゃんとやれよ〜」
今は顔に出てなかったはず、大丈夫大丈夫。
「これ、Aさんの言う通り美味かったよ、」
勉強もひと段落着いて、疲れた〜と大きく伸びをするAさんに声をかける。
『だよね!縁下くんならわかってくれると思った!』
そういう君は曇り無い笑顔。
その顔が見たかったんだ、って言ったら、君はどんな反応をするだろうか。
「もうすぐ暗くなりそうだし、そろそろ帰ろっか?」
もうこんな時間か、とAさんはハッとして、
『残念だなぁ、』
なんて言うから俺はちょっとびっくりしてしまった。
『この時間結構好きだから、』
深く考えてない言葉だってことは分かってる。分かってるけど、いつからだろう、君の言葉は特別で。
「俺も、2人きりの時間好きだよ。」
なんて言っても、君は意識してくれないんだろうな。
「じゃあ、帰ろうか。」
鞄を持って階段を下って、下駄箱に着いたあたりで思い出す。今朝Aさんは、雨に濡れてやって来た。ということはつまり...
「傘、良かったら入る?」
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作者名:メチルオレンジ | 作成日時:2020年5月26日 12時