第12話『打上花火』 ページ13
ドーンという大きな音に、この場にいる全員の視線が集まる。
「花火、始まったね。」
りんご飴を頬張る手を止めて、私もまたその花火に視線を釘付けにされた。
口の中いっぱいに広がる甘くて幸せな味。でもりんご飴のりんごって、いつものよりちょっとだけ酸っぱい。そこがまた好きなんだよなぁ
『みんなとの集合場所、行こっか』
「そうだね。ここからけっこう遠いみたいだけど、」
『そっかぁ…』
下駄で歩き続けただけあって、なかなか足にきてるんだよなぁ
「やっぱりちょっと休んでからにしようか」
近くにあった石垣に並んで腰掛ける。と思えば彼は私の足元にしゃがみ込んだ。
「絆創膏貼るから、ちょっと足見せて」
手際よく絆創膏を貼っていく。靴擦れって長く歩く時にはなかなかツラいけど、歩けないわけじゃないからって我慢してしまう。
『なんで気づいたの?』
「見てたら分かるよ、」
彼のストレートな言葉はいつも私の鼓動を早くする。
『ありがとう、これでまだ歩けそう』
「よかった、じゃあみんなと合流する?」
『…でも、もうちょっと』
もうちょっとだけ2人で居たいな、なんてわがまま言えなくて。縁下くんもきっとみんなと早く合流したいだろうし。
『…行こうか、』
「やっぱりもうちょっとだけここで見ない?」
『でも、縁下くんのことみんな待ってるんじゃ…?』
「俺がAさんともっと2人で居たい、って言ったら?」
何者にも邪魔されない2人きりの空間が、なんだか心地よくて。
『花火、終わっちゃうね』
「終わらないで欲しい、って思った」
『帰りたくないなぁ』
2人を取り巻く暗い夜空を、今日一大きな花火が彩った。
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作者名:メチルオレンジ | 作成日時:2020年5月26日 12時