おやゆびひめの日々

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自己調整でいけます、と綺麗な顔で笑いやがった翔平くんは、情報を漏らさないためにもピッチャーとしての準備を表立ってすることは出来ないので、ストレッチ後は再びバッター練習に合流した。

そんなわけで私は、ここから試合まで今永くんの調整に全振り。ストレッチから、ランニングから全部付きっきりでいつものルーチンをこなしていく。

「よし、今永くん、ブルペン！」
21「はい」

しっかりとアップをこなした状態でブルペンに入れば、厚澤コーチに呼ばれた。横には何故か悠平さんもいる。

「Aだけでいい。今永は投げ始めててな」
「分かりました」

私だけ呼ぶなんてなんだか怖いな。そう思いつつも行かないわけにはいかないので、2人の元に駆け寄れば、案の定深刻そうな顔をしている。

75「……今永のストライクが入らん」
「えﾞ」

待って、想像の数倍インパクトのある言葉が来た。悠平さんのネイルポリッシュが無くなったとかそういうのがよかった。それなら腰に下げてるポーチから出してあげられるのに。さすがにストライクはあげられないよ、私でも。

「入らないって言っても……ほら、限度がありますよね」
27「ちょっと見ててね」

いつも通りの何を考えてるのかよく分からない表情と綺麗なフォームから、ボールがリリースされて……。

「おっとぉ……」

これはなかなかやばいのでは？結構な外れ方をしてるし。今永くんもしっかり首傾げてるし。いや、君が投げたボールなんだよ。

そこから数球見たけど、下手をすれば4者連続フォアボール満塁押し出しでは、というくらいの感じだった。怖すぎてさすがに、口にも出来なかったけど。

75「……やっぱりやばくないか？」
「言わない言わない」
27「ちょっと心配っすね」
「こらこらこらこら」

怖すぎる2人の発言に耳を塞いで聞こえないふりをする。確かにこんな今永くん見たことないし、すごい不安だけども！

「よしよしよし、いけるいけるいける。なんたって、私が育てた子だから、大丈夫」
75「なんだってAが1番緊張してるんだ」
27「てか、母親だったの、Aちゃん」

いや、母親じゃないけど母親みたいなものです。なにせ入団からこっち、彼の愚痴も弱さも、そしてエースになろうという背中も全部見てきたので。


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試合前のお話は、決勝の投手リレーで最初と最後を任された2人にフォーカスしています。 全然終わらなかったので、続編でもう1、2話、試合前のお話を書く予定です！

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