おやゆびひめの日々 3

. ページ45

＊

44「Aさん、中、待機じゃなかったんですか？」
「ん、ちらっと様子見に来た時に浩康さんに呼ばれただけ。すぐに戻るよ」
100「Aさんにあとでストレッチ教えてほしいんですけど、大丈夫ですか？」
「それはもちろん。しっかり練習してからおいで」
33「俺も！お願いします！」
「ふふ、いいよ」

元気いっぱいで大変よろしい。若い子は元気があってなんぼだからね。
一軍のおじさんなんて、この暑さにやられて、ストレッチ用のベッドでみんな寝落ちてるからね。毎度叩き起こす側の身にもなってほしいよ。

若い子を練習に送り返して、今度こそトレーナー室に帰ろうとすれば、またまた視線。そろそろ暑いから帰りたいんだけどなぁ。

「はいはい、どちら様？」
1「うっす！」
「あら、クワくん」

自他ともに認める頑丈くんが、肉離れという形で一軍を離れることになったのは、衝撃だった。
ゆっくり休んでリフレッシュして帰ってこい、というのがこちらの意図だったんだけど。まぁ、この子が大人しく休んでるわけなかったよね。

ファームからの報告で、「クワさん練習開始しました！」って来て、さすがに一軍トレーナー揃ってひっくり返るかと思ったもんな。

「本当に治ったんでしょうね」
1「んー、多分！」
「怪しい……」

じとりと睨めば、困ったような苦笑いで返される。けど、自分の気持ちを曲げるつもりはないようで、ぺしりと左脚を叩いてみせた。

1「けど、うかうかしてられるほど余裕はないんで」

その言葉に込められた思いを汲み取れてしまうくらいにはこの世界でやってきて、そう思ってしまう彼の気持ちを否定できないくらいには彼との付き合いも長くなった。

「……はいはい。あとで見てあげるから、終わったらトレーナー室おいで」
1「ははっ、Aさんのそういうとこ大好きです」

若い子みんなを一軍で見たいけど、今いる子に1人も離れてほしくない。そんな相反した思いを抱えながら、もう何年もやってきた。

それでも、最後までひとりひとりに全力で向き合うのが私にできる精一杯のやり方だから。

「ま、ぼちぼち頑張りなさいね」
1「はぁい、しっかり頑張ります！」
「話を聞け」



ーーーーー

なんで最後しんみり系になった！！？というお話でした 不思議ですね

リクエストいただいていた、二軍の子も(ほんの少しですが)出せました！もっとちゃんと出したい、ちゃんとみんなのこと知りたい……！


それではまた、次のおはなしで！

haru🌷

お祝いケーキ　6/23→←泥臭くても　6/21

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す