黒尾鉄朗 × 教室 ページ26
音駒高校の北校舎、３階にある３年生の教室。普段はこの時間でもそれなりに人はいるのだが、今日は７割方の生徒が帰宅していた。時間は午後４時半。ＨＲが終わってから１時間が経つ。
本来なら私はもう自宅にいる予定の時刻だ。
それなのに___
「て、つろ･･･っ」
「お前、ほんと俺のこと誘うのうめぇよな。」
教室の普段の用途とはかけ離れた甘い秘め事がそこで行われていた。
「あーあ。クラス１の優等生がこーんな顔するって知ったら、みんなどんな顔すんだろなぁ」
ニヤリと口角をあげる彼を見て背筋に電流が流れるような感覚に陥る。
「だって、鉄朗がっ！」
「あれれ？俺だけのせいですかー？満更でもなさそうだったのはどこのAさんかなー？」
こいつ、私が言い返せないのを分かって･･･
「ほーら言い返せない」
その言葉とともにもう一度引き寄せられた腰。再び甘い作業が始まった。
もちろんイケナイ事をしている自覚はある。
「声出すんじゃねーぞ？」
『ばれたら困るんだろ？』
耳元で吐息交じりに囁かれたその言葉はあまりにも甘すぎて。
「んっ…っ」
「その姿たまんねー」
かぷっと甘噛みされたのはうなじ。我慢してても声が出てしまう。
「ぁ…、それイヤ･･･！」
「はいはい、これが好きなのね。りょーかい。」
「ち、違っ！」
「そろそろ素直になってもい･･･」
彼の声が止まる。そして同時に私の思考も止まった。
『なぁー！そろそろ帰ろうぜ！』
『おー！そーだな！』
耳に入ってきたのは、おそらくクラスメイトの男子の声。思わず息を飲み込んだ。
早くここを通り過ぎて！
私の頭にはその言葉しか思い浮かばなかった。
でも___
『あ！悪りぃ、教室に筆箱忘れたかも！取ってきていい？』
予想外の展開にぐっと身体がこわばったのが自分でも分かる。こんなところをもし見られてしまったら…。ふと我に返り、今の状況を思い出した私は、慌てて鉄朗の身体を押し返そうとした。
「てつろ、は、離れて！」
「ちょっと黙ろうか。」
目の前には同じく険しそうな顔をしている鉄朗の姿。だが、私を解放しようという意思は全く持って見受けられない。彼の視線がぐるっと教室を一周した後、そのままある一点に集中した。
「A、こっち来い。」
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作者名：和紗
| 作成日時：2016年5月22日 15時
