＿＿キューピッド 9 ページ38
・
o side
初めて入った櫻井の部屋は、意外にも綺麗に整頓されていて、あまり物が多くない印象を受けた。
その中にいる、女の子の姿の櫻井は何処か浮いていて、現実離れしたように感じる。
「ごめんなさい、わざわざお見舞いにきていただいて。本当は、こんな姿になっちゃったから、仕事に行けなくて、嘘ついてたんです。」
俺に向かってしゅんとした表情を浮かべて謝る櫻井は、俺にとっちゃ、可愛くて仕方なくて。
つい、手が出そうになってしまう。
でも、だめだ。櫻井には恋人がいるんだから。
そこの一線は超えてはだめだ。
そう自身に言い聞かせ、なんともないように振る舞う。
「全然大丈夫、寧ろ来れてよかった。」
「どうしてですか？」
「だって今日来てなかったら、櫻井がこんなことになってるの知らないままだったし、助けることもできなかっただろ？」
そう言うと、ぱあっと明るくなったように見えたがそれも一瞬で、またしゅんとした表情に戻ってしまう。
「大野さんって優しいですよね。」
「そんなことないよ。」
「いえ、優しいです。」
ふわり、柔らかな笑みを浮かべた櫻井はそのまま言葉を紡ぐ。
「俺、女の子になっちゃった原因、わかってるんです。」
「え、」
「今、好きな人がいて。
その人の隣に立ちたかったからなんです。
胸張って堂々と、世間からも非難されず
ただ真っ直ぐに。
でも女の子になれたからって、その人の隣になんて並べるわけもなくて、結局、意味なかったんですけどね。」
そう呟くように、
語られた恋は切なくも儚くもあって。
手に届きそうで、届かない。
そんな歯痒さを感じた。
それと同時に、彼女の話は嘘だったのかなと悟りながらも、僅かな望みを抱いている自分がいて。
「俺じゃだめなの？」
と、無意識に
隠していた欲がほろりと溢れてしまった。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 687人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
もふ(プロフ) - きよさん» コメントありがとうございます。ずっと寝かしていたお話にご感想をいただけて、嬉しいです。きっと何処までも続いていくふたりの恋路を見守りながら、またふたりを描けたらいいな、と思います。再開までもう少しお待ちいただけたら、幸いです。 (2021年10月16日 17時) (
レス) id: 8ef6cca80b (このIDを非表示/違反報告)
もふ(プロフ) - 花咲*さん» 温かなお言葉をありがとうございます。大好きだと言ってくださって、とても嬉しいです。大好きなふたりをまたここで描けるように、心を暖めていきたいと思います。再開まで、もう少しお待ちいただけたら幸いです。 (2021年10月16日 17時) (レス) id: 8ef6cca80b (このIDを非表示/違反報告)
きよ(プロフ) - もふさん、可愛いお話しありがとうございます。女の子翔ちゃんならそのままでと思ってしまいそうなのに、翔くんの事なら何にも動じないで信じ、ありのままを愛せる智くんが最高です。想いが強くて女の子になっちゃう翔くんも好きです。このお二人にまた合いたいです。 (2021年10月13日 12時) (レス) @page44 id: 6c6ffed641 (このIDを非表示/違反報告)
花咲*(プロフ) - もふさんのお山のお話が大好きでした。お山信者の私はお山のお話を読むことですいつも癒されていました。ありがとうございました。また、もふさんがここに来てお話書いてくれる日を夢見て待っています。お話残して下さりありがとうございます。 (2021年10月12日 22時) (レス) @page30 id: 7a9a23c4d1 (このIDを非表示/違反報告)
もふ(プロフ) - きよさん» いつもお優しいコメントをいただき、とても支えになっていました。本当にありがとうございます。とにかく甘いふたりが好きな私にとって、今までのようなお話を書くには少し時間が必要で。心が落ち着いて書きたいと思えた時に戻ってきます。お待ちいただけたら幸いです。 (2021年10月4日 14時) (レス) id: 8ef6cca80b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：もふ
| 作成日時：2021年2月7日 0時
