そうなんだ ページ10
また、彼女に会えるだろうか。
父が運転する車の中で、私はキラキラ光る街を呆然と見つめていた。
そんな私を見て、父はいつも通り話し始めた。
「いやぁ、びっくりしたぞ。
街中で急に告白し始めるんだもんな!それも女の子に!」
あっははは、という笑い声が車に響く。
本当に面白いと思っている笑いだ、これは。
私は窓の外を見つめたまま、黙って父の声を聞いていた。反応がないことを察して、父は高いテンションを少しだけ下げて私に問うた。
「Aはあの女の子……釘崎さんだっけ?と初めて会った時、どう感じた?」
「どうって……鼓動が早くなって、胸がキュってなっただけだよ。すごく綺麗な子だったじゃない?
だから、初めて見た時すごくびっくりした。」
お互いに相手の顔を全く見ないまま言葉を交わす。
初めて彼女の顔を見た時のことを思い出して、少しだけ怖くなった。
あの時釘崎さんが助けてくれなかったら、私はどうなっていたんだろう。
私の返事を聞いた父は、さっきと同じように心底楽しそうに笑った。
「あー、それ完全にその子のこと好きになっちゃってるな。女の子同士か、頑張れ。」
「……は?」
車に乗ってから初めて運転席の方に目を向ける。
いきなり何をぶっ飛んだことを言い出すんだこの親父は。
「だって母さんに初めて会った時の俺と完全に一緒だぞ、それ。
まぁ俺の娘だし、性別の壁くらい余裕で越えるだろ。」
父のその言葉は、胸に真っ直ぐストンと落ちてきた。
ああ。そっか、私は釘崎さんに一目惚れしたんだ。
私の顔を覗き込みながらオレンジの夕日で髪を染める彼女を思い出して、無意識に頬が緩む。
そうか、そっか。
「当たり前でしょ。性別の壁なんてハードルより低いっつーの。」
口角をゆるりと上げて、父に言葉を返した。
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作者名:枯道 | 作成日時:2021年1月24日 10時