不穏な気配 ページ4
声をかけてきた男性は、人あたりの良さそうな笑みを浮かべていた。
の、だが。
「(あ、なんか嫌な予感がする。)」
言葉では言い表せない、真意を薄いベールで隠しているような、そんな話し方だった。
私より背の高い、茶髪の男性。
独断と偏見だけで言うと、夜の仕事をしてそうな人。
「今、お時間よろしいですか?」
振り向いたままポカンとしている私に、そのままその人は話しかけてきた。
「え…ぁいや、あの。」
「お嬢さん、お金に困ってません?」
「(夜の仕事に誘う時の常套句みたいなの来た!!!)」
駄目だ駄目だ、これ絶対やばいヤツだって。
こういうのは断らないといけないってTw○tterが言ってたもん!!!
「ぁ…いえ、大丈夫ですので………」
「ほんとに〜?結構高い買い物してたように見えたけど。」
会計してたところから見てたんすか!?
まあ確かに毛糸以外にも水引とか買っちゃったから……
違う違う、絆されるな私。
「あの、本当に大丈夫です…」
一刻も早くこの場から立ち去らねば。
足早にその場を移動する。
「そんなツレないこと言わないでよ〜」
着いてくんなし!!!
マズイって、着いてきちゃってるよこの人!
歩くスピードを速くしても、すぐに追いつかれてしまう。
「あの、私まだ学生なので…本当に結構です。」
「学生なら尚更お金ないんじゃない?」
それは流石にポジティブシンキングすぎるでしょう。
どうしよう、話せば話すほど墓穴を掘る……!
でも、だからといって術式なんか使ったらこの人死ぬよね…
頭の中でぐるぐると思考しながら歩いていると、いつの間にか人の少ない路地の裏へ来てしまった。
後ろにはこの人がいるから戻れないし、進めば裏路地。
気づいた時にはもう遅かった。
壁に追い込まれて逃げ道がない。
冷や汗が頬を伝い、目の前の男性を見つめる。
相変わらずの軽くて薄い笑顔のまま彼は喋り続けている。
ふと手首を掴まれた。
「すぐ終わるから平気平気!ね?」
「おねが、離して…!」
「大丈夫だから、ね?ちょっとだけ着いてきてって。」
頭がパンクしそうだった。
目の奥が熱くなって、喉がヒリヒリする。
もう、この人が何を言っているのかも理解できそうになかった。
手を引かれそうになった時、女の子の声がした。
「おいコラ。何してんだテメェ。」
「え?」
振り返った男性は次の瞬間、通路の奥へと吹っ飛んでいった。
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作者名:枯道 | 作成日時:2021年1月24日 10時