野に咲く薔薇に愛を刻む【呪術廻戦】 (ページ12)

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車を降りると、和館と洋館が並んだ不思議な建物が目に飛び込んできた。
幼い頃に映画館で見た八百万の神が体を癒す、あの湯屋に似ている。
…まさかこんなに大きな家に住んでいるなんて思いもしなかった。
フリーズしている私を放ったまま、父は容赦なく玄関の扉を開ける。

「ただいまー。……Aもそんなとこ立ってないでおいで。」

そのままさっさと家の中に入っていく。
閉まってしまった扉を見て、父さんにとってここは実家でもあるのか、と気がついた。
父は昔、「うちの実家はさ、ちょっとワケありだから嫡男とか当主とかあるんだよ。今は兄貴が家継いでるけどね。」とかなんとか言っていた。
叔父さんは家を継いで、そのまま実家に住んでいるわけか。

恐る恐る扉に手をかける。
焦茶色の大きな扉は見た目よりも軽い力で開いた。
家の中は綺麗に掃除がされていて、玄関には適当に脱いだであろう父さんの靴が転がっていた。
父の靴を揃えてから、座り込んで靴を脱ぐ。
廊下の先で待っていた父がこっちこっちと手招きする。

周りを見て気がついたが、玄関があるこちらの方は洋館になっているらしい。
そのままついて行くと、木製の大きなテーブルと椅子が並ぶ広い部屋に着いた。
そのうちの一つに男性が座っている。
…父にそっくりだった。

「さっきぶりだな兄貴。こいつが俺の娘のA。」

父さんは私の肩をポンポンと叩きながら、その男性の方へ押し出した。

「はじめましてAさん。私は雪下理(わたる)、要の双子の兄…あなたの叔父にあたる。」

この落ち着いた声の男性が、私の叔父だという。
休日でラフな格好をしている父とは逆に、理さんは仕事帰りなのかきっちりとしたスーツを着ている。
…二人ともスーツを着ていたら、正直見分けられる気がしない。

「はじめまして、雪下Aです。」

挨拶をしながら軽い会釈をする。勝手に椅子に座っている父さんがお前も座れとこちらを見た。
椅子を引いて座ると、理さんが話し始めた。

「要からどこまで聞いているか分からないから、とりあえずいくつか質問をしてから説明させてもらうね。」