色々、色々、どんな色? ページ2
ここは、いつどこを見ても飽きることの無い街だ。
洋服、雑貨、飲食……全てが未知に染まっている。
それを見逃したくなくて、けれどもっと早く次へ、先に行きたくて。
相反する二つの感情がせめぎ合っている。
右へ、左へ、前へ後ろへと首を振り回すように当たりを見渡しながら、足だけは確実に前へ進める。
足は最初からひとつの場所にしか向かっていないのだ。
毛糸やかぎ針、刺繍糸や縫い針を売る手芸用品店。
地元にはない多くの商品が並ぶ、夢のような空間。
……私は手芸が好きだ。
何も考えずに手だけ動かして、ただ無心で作品を作り上げるあの時間が堪らなく好きだ。
作業をしている間は喜怒哀楽や時間、空腹や眠気などの全てを超えることだってできてしまう気がする。
まぁ、もちろんそれは気の所為に過ぎないのだが、兎にも角にもとても集中できるのだ。
少しだけおばあちゃんみたいな趣味だなと自分でも少し思うけれど、一応部活で入賞するくらいには技術が伴っている。
入口から階段をおりていけば、淡い色、濃い色、鮮やかな色、くすんだ色……この世の全ての色が集まったような空間にたどり着く。
糸、それも手縫い用から刺繍用、ミシン、毛糸まであらゆるものが揃っている。
ああ、なんて心地よい空間なのだろうか。
オルゴールの流れる店内で、自分の好きな色だけを籠に入れていく。
こんもりと糸の山が積み上がった籠をレジへ持っていき、会計を済ませる。
……割と高かったな…。
調子に乗って少し買いすぎてしまった。
手芸用品をそのまま自宅へ配送する手続きをして外へ出ると、空は鮮やかすぎる程のオレンジと紫に染っていた。
危ない危ない、あまりにも楽しいものだから時間を忘れていた。
スマホを見ると、五時半ちょい前。
父からの連絡はない。
まだ話が終わっていないのだろうか。
さて、この後どうしようかと考えていると、後ろから声をかけられた。
「あの、すみません。」
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作者名:枯道 | 作成日時:2021年1月24日 10時