はじめの一歩 ページ1
東京。
止まぬ喧騒に包まれた煌びやかな街。
人混みの中では、自分の現在地を知ることも容易ではない。
目眩がするほどの人、人、人。
行き交う人々の話し声、乗り換えのアナウンス、改札の音、車やバイクの走行音。
夢にまで見た都会の光景は、想像よりも遥かに雑音と人で溢れかえっていた。
樹木の代わりにビルが生える街。
自分の目を通して見た実物の、『本物の都会』に堪らなく心を弾ませる。
「遂に来た……東京…!」
人の波に揺られながら、私は高鳴る胸を押さえつけた。
ほかの人よりも少しだけ平坦な胸の最奥が、今にも破裂しそうな程に鼓動を繰り返している。
しかし、心を躍らせていながらも、初めて目にする人の多さに若干の不安感を覚えてしまう。
忙しないのは人の動きだけではなさそうだ。
ソレは小さな、数値化したらほんの数グラム程度の悪意達。
どこを向いてもソレが目に入るなんて、地元じゃ考えられなかったのにな。
人が多いと、その分こういうのも増えるってことだろうか。
エスカレーターの手すりに引っ付いた、誰かの不幸を願う可哀想な
『父さんと母さんは兄貴……要するにお前の叔父さんの家へ向かうから、一時解散して夜に旅館で集合しよう。』
父が先刻言った言葉を頭で反芻する。
「叔父」という今まで意識したことも無い存在が、この東京観光に何か関わっているらしい。
と、いうか兄貴いたんですか父さん。
娘は初耳なんですが。
不満を漏らせば、大人の事情だと雑な説明をされた。
そして私は鬱憤を晴らすためにも一人街へ繰り出したわけだ。
都会への期待と親への不満に挟まれながら、私は足を踏み出した。
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作者名:枯道 | 作成日時:2021年1月24日 10時