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それからしばらくは沈黙が続いた。
二人きりの静寂。
それはとても静謐たる時間で、気まずいようなものではなかった。
雨の匂いがした。
ざあざあと降る雨に土が溶けていく。
どこかから車の走る音。
はたして水たまりの跳ねる音がした。
子供の頃、一度だけ水たまりに飛び込み、びしょびしょになって帰ったことを思い出した。
友達が遊んでいたからただ付き合っただけだったけれど、それは確かに楽しかったと思う。
家に帰ると母は目をまん丸に開いた後、風邪を引くといけないからとタオルを渡してくれた。
靴を脱ぐと中に水が溜まっていた。それでも母は私を叱らなかった。
私はとても興奮していた。
マラソンを終えたときのように、はくはくと心臓が鼓動を打っていた。
ぬれたランドセルを拭くと、何かを成し遂げた勇者のような誇らしい気持ちになった。
後にも先にも、あれほどまでに誇らしい気持ちになったのはあの一回だけ。
ただ水たまりで遊んだだけなのに、少しいつもと違うことをすれば世界が違って見えた。
今よりずっと、怖いものはなかった気がする。
どこでどう間違えたのか、今は怖いものだらけだ。
「...あ、」
重岡が小さく声を上げた。
咄嗟に顔を上げる。
どうしたの、と声をかけようと思った。
できなかった。
重岡が手に持っている“それ”が見えてしまったから。
バクバクと体が脈を打った。
体全体が心臓になったような気さえした。
気づけばうつむいていた。
逃げ出したかった。
真っ赤な耳を隠して、世界の果てに逃げたかった。
「...俺の、間違いやったら言って欲しい」
独り言のような、けれど確実に私に向けられている声が聞こえた。
「これ...これが、綾瀬の探してた..やつ？」
重岡の手のひらにある柴犬のキーホルダーがころん、と揺れた。
声をあげることもうなずくこともできない。
ただ、赤くなった耳を隠すことに必死だった。
「..教室戻ろう、このままじゃ風邪引く」
さっきよりも、強い声だった。
立ち上がった重岡の、教室へ向かう足音が聞こえた。
しばらくは立ち上がれなかった。
「綾瀬」
次に聴こえたのは、優しい声だった。
つられるように、顔を上げた。
「行こ、ぬれちゃうで」
優しい笑顔だった。
恥ずかしさと、気まずさと、重岡に気を使わせてしまった罪悪感。
いろんな感情が渦巻いて、消えたくなった。
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プシュケ(プロフ) - しょあさん» ありがとうございます(;_;)大好きだと言ってもらえると私なんてまだまだちっぽけなのにとても誇らしい気持ちになれます。魔法のような言葉だなあと常々思います。更新頑張りますね！ (2018年6月30日 21時) (
レス) id: c500b02c4b (このIDを非表示/違反報告)
しょあ(プロフ) - だいすきなお話です！更新楽しみにしてます(ノ_＜) (2018年6月25日 1時) (レス) id: a32bcb43cc (このIDを非表示/違反報告)
プシュケ(プロフ) - れんれんLOVEさん» ありがとうございます(;_;)そう言って頂けて有り難いです。２人の恋がゆっくり動き出すところを見守っていただけたら幸いです、更新頑張ります！ (2018年4月15日 23時) (レス) id: 0d3b4e228a (このIDを非表示/違反報告)
れんれんLOVE - お互いまだ好きなのにその恋を諦めようとしてる。そんな感じでとても切ない気持ちになりました。これからも頑張ってください！ (2018年4月15日 16時) (レス) id: d3a8aaae25 (このIDを非表示/違反報告)
プシュケ(プロフ) - 永瀬のあ。さん» ありがとうございます(;_;)弟子ができましたも読んでいただけてるんですね、嬉しいです、ありがとうございます。さっさと言えよ！って感じですよね、私もそう思います。笑 少しずつ成長していく姿を見守っていただけたらと思います、更新頑張ります！ (2018年4月8日 22時) (レス) id: 0d3b4e228a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：プシュケ
| 作成日時：2018年4月7日 18時
