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張り詰めていた糸が切れたように、私の肩がビクッと一回跳ねた。
周りが何も見えない薄暗い森の中で、突然懐中電灯の煌々とした光を向けられたような気分だ。
その音の主は私が振り向くのを待ち構えているかのように、何も言ってこない。
だけどもう一度。
次は少し控えめにガシャンと音がした。
フェンスの音は、少しわざとらしいような気もした。
「..何してんの」
なかなか振り向かない私を訝しんだのだろうか。
とうとう、その音の主は自らの音で私を呼んだ。
しとしとと降り続ける雨のせいか、グラウンドは少しずつ活気を失っていく。
静寂の中、私は一つ息を吐いて、フェンスの方を振り返る。
「...ちょっと、失くしものを探してるだけだよ」
重岡はフェンスに手をかけていた。
制鞄をリュックのように背負い、透明なビニール傘で雨を凌いでいる。
私はテープで貼り付けたような笑顔を浮かべた。
重岡は微塵も笑いかけてはくれなかった。
それでいいと思った。
暗澹とした鬱蒼な森に迷い込んだままでいるのは、私だけでいい。それは立派に本心だ。
単純に、今も重岡がくれたキーホルダーを使っているのを知られたくないという理由もある。
しかもそれを失くしてしまったから探しているなんて、知られたくないと願うのは当然の原理だと思う。
どうして、私に声をかけたかわからない。
わかりたいとも思わない。
きっとそこに理由なんて大層なものは存在しなくて、人知れず肩を落とすのは私だ。
最初から期待をしないというのは、とても大事なことだと思う。
相手が優しければ優しいほど、調子づいた私は言葉や行動の裏を探ろうとしてしまう。
裏なんて存在せず、がっくりと肩を落としたことも少なくない。
「何失くしたん?」
「..大事なもの、ていうか」
「手伝おうか?」
「ううん、大丈夫。ありがとう」
「雨ひどくなるで?」
「見つかったら帰るから」
「見つかるまで帰らんねや?」
揚げ足を取られて思わず言葉を探した。
笑顔が崩れそうになるのを必死にこらえた。
どうして重岡の前だと、うまく笑えないのだろう。
少しずつ調子が狂わされていくような感じがする。
「じゃあ、また明日ね」
半ば強引に会話を断つ。
私はまた花壇に目をやった。
次にガシャンとフェンスが音を立てたのは、少し雨が強くなってきた頃だった。
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プシュケ(プロフ) - しょあさん» ありがとうございます(;_;)大好きだと言ってもらえると私なんてまだまだちっぽけなのにとても誇らしい気持ちになれます。魔法のような言葉だなあと常々思います。更新頑張りますね! (2018年6月30日 21時) (レス) id: c500b02c4b (このIDを非表示/違反報告)
しょあ(プロフ) - だいすきなお話です!更新楽しみにしてます(ノ_<) (2018年6月25日 1時) (レス) id: a32bcb43cc (このIDを非表示/違反報告)
プシュケ(プロフ) - れんれんLOVEさん» ありがとうございます(;_;)そう言って頂けて有り難いです。2人の恋がゆっくり動き出すところを見守っていただけたら幸いです、更新頑張ります! (2018年4月15日 23時) (レス) id: 0d3b4e228a (このIDを非表示/違反報告)
れんれんLOVE - お互いまだ好きなのにその恋を諦めようとしてる。そんな感じでとても切ない気持ちになりました。これからも頑張ってください! (2018年4月15日 16時) (レス) id: d3a8aaae25 (このIDを非表示/違反報告)
プシュケ(プロフ) - 永瀬のあ。さん» ありがとうございます(;_;)弟子ができましたも読んでいただけてるんですね、嬉しいです、ありがとうございます。さっさと言えよ!って感じですよね、私もそう思います。笑 少しずつ成長していく姿を見守っていただけたらと思います、更新頑張ります! (2018年4月8日 22時) (レス) id: 0d3b4e228a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:プシュケ | 作成日時:2018年4月7日 18時