終わった恋の始め方(赤)

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sigeoka side






もはやお経のような数学の説明を右から左に受け流す。

板書をノートに写してみるけど全く頭には入ってないと思う。



“さっきはごめんな”



ぶつかった時、謝れなかったから。

ノートの端っこに書いて少し大きめにちぎってみる。

ちぎってみた、けど。

綾瀬に渡す？

そんなこと、いきなりしたら引かれるだろうか。

ええい、どうとでもなれ！



ポイ、と綾瀬の机に紙を放った。

放るだけ放ってすぐに机に突っ伏す。

綾瀬の反応なんて見たくない。

心底嫌そうな顔なんてされたら、俺一生立ち直れないと思う。







ペチ、と頭に何か当たった。

ゆっくり起き上がる。

机の端に転がったさっきの紙。

恐る恐る中を開いてみる。



“全然大丈夫です”



丸っこくて小さい字。

ゆっくり綾瀬の方を見てみたら綾瀬はまっすぐ先生の方を見ていた。



返事、返してくれるんだ。

うわー、うわー、うわー。

やったーって叫びてー。

嬉しくてにやけそうになるのを必死に耐える。

足を誰にもばれないように小さくばたつかせた。

どうしよう、もう一回くらい書いて渡してもいいかな？

でも何書こうか。

何を書こうか必死に悩んだ結果



“いい天気やね”



不恰好な晴れマークも書いてみた。

自分でもなんだこの会話って思った。

だけどどうしても会話を続かせたくて。

会話をしたいっていう意思を伝えたくて。



もう一度、ポイっと綾瀬の方に投げた。

二回目でも反応を見るのが怖くてまた机に突っ伏した。


紙が戻ってきた。

ゆっくりゆっくり中を開いてみる。



“本当だね”



文字の後ろに綺麗な晴れマークが付いていた。

綾瀬、絵が上手いから。

こんなにどうでもいい内容の言葉にもちゃんと返してくれた。




馬鹿みたいかもしれないけど

女々しいかもしれないけど

この紙は大事にとっておこうと思った。



いつか、また

こんなくだらない会話を紙でじゃなくて

自分たちの口で、声で、話したい。









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