終わった恋の始め方(赤)

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「おはよー、A。」

「おはよう。」

「朝ご飯食べるの忘れた。」

「寝坊？」

「するど、」



運動場から朝練の声が聞こえてくる。

廊下ではおはよう、って声が飛び交っている。


少し開いてる廊下の窓。

くしゅん、ってくしゃみがどこからか聞こえて

春だなって思ってしまった。



少し冷える廊下を歩いて

まだ見慣れないドアを開ける。

みんながおはよう、って笑いかけてくれるから私も頑張っておはよう、と返した。



「今年も同じクラスでよかったよね。」

「うん、結沙がいてくれて嬉しい。」

「早くクラスに馴染みたいねー。」

「ねー、」



春の日差しがポカポカ暖かい。

窓際の席になれてよかったな。


クラスの名簿を見ながら結沙と名前を覚えていく。

読めない名前は結沙が直接その子に聞きに行ってくれた。

綾瀬A、猪野口琴葉、大崎龍一、神山智洋、栗川朱莉、紺野葵

1人の名前で、指が止まった。



「セーーーッフ！？」

『セーフセーフ！』

「っぶねー。自転車かっ飛ばしてきたかいあったー、あっちー。」



重岡の楽しそうな声を合図にみんな重岡に集まって行って

あっという間に、中心に。


ガタン、と隣の席が揺れた。

背筋がピンと伸びた。

体に力が入る。



「A、？」



結沙の優しい声も聞こえない。

今日こそ、今日こそ声をかけなきゃ。

おはよう、って。

たった4文字。


でも、私の口は頑丈で

一向に開く気配がない。



『しげー、』

「なにー？」



またガタンと席が揺れた。

また名簿を指でなぞる。

『重岡大毅』

せっかく同じクラスになれて、隣の席になれたのに。



「まだ重岡のこと好きなの？」

「..わからない、だけど。」

「だけど？」

「おはようって、..言いたい。」



おはようって言えたら

きっと私の世界は少し変わる。

そんな気がする。


それはそんなに難しいことじゃなくて

単純に、もう一度

重岡と話したいって思う。

ただそれだけの気持ちが、今日も空回り。



重岡の楽しそうな姿が見えないように、私は下を向いた。









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