No.12 始動に向けて ページ19
sideA
旅館業の朝は早い。
遅くても朝5時から仕事を始めるので、たいていの従業員は、4時と言ったら起きている。
例外なく俺もその1人だ。
朝食の仕込みを終え、少しの隙に抜けさせてもらった。
そして、向かう先はヴィクトルの部屋。
起きてないよな、なんて思いつつ襖を開けると、『やあ、おはよう』なんて笑顔で言われたので思わず固まってしまった。
「あ、おはようございます…」
「早いんだね？」
「一応ここの旅館の従業員してるんで。ヴィクトルこそ、早いですね」
「敬語はやめてよ〜。なんとなく時差ぼけしてるみたいだ」
ああ、時差ぼけ。成る程ね。
さて、本題に入ろうか。
俺は何も、ヴィクトルを起こしに来たわけじゃないんだ。当然ながら。
「わかりました。俺は東野A、下の名前で呼んでもらって構いません。歳は23、勇利の新任コーチです」
「スピードスケート界の天才が勇利のコーチ、ねぇ」
ヴィクトルは愉快そうに笑った。
それはとても綺麗に唇を歪ませたものだから、思わず見惚れてしまいそうになる。
けれど、俺の心は冷たい水の底に沈んで行くようだった。
『天才神童』
かつてはそんな二つ名を欲しいままにしていたが、全く嬉しくない。
世間は、成績のいい選手をもてはやすだけもてはやして、駄目になれば直ぐに否定的になる。
嫌な思い出だ。
そんな俺の思考を打ち切ったのは、ヴィクトルだった。
とん、と眉間に添えられた指は鼻筋を辿り、唇をむにむにと触られた。
「俺は君が何者だって構わない。俺と君がいれば勇利は無敵だ！俺たちが勇利の両の翼になって、羽ばたかせるんだ！！それに、彼は君に随分入れ込んでいるようだしね。だから君や勇利について、何でも教えてくれよ、A！」
息がかかるほどの至近距離で言われた。
ち、近い。
昨日勇利が飛び退いていたけど、これは無理もないと思う。
俺だって飛び退きたいところだが、身体が言うことを聞かないのでずりずりと後ずさった。
俺は男だからまだしも、女性にこれをしたら、確実に落とせると思うぞ。
「い、今立ち話もあれだから、また呑みに行った時にでも話すよ！うん、それじゃあ仕事あるから！！」
厨房へ戻る途中、自然と早歩きになった。
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駄人間K(プロフ) - ☆Rin☆さん» ありがとうございます！更新頑張ります！！ (2017年1月6日 21時) (
レス) id: c389418083 (このIDを非表示/違反報告)
☆Rin☆(プロフ) - この作品のおかげでユーリ沼にはまりそうで怖いです（笑）更新ヾ(〃＾∇＾)ｏ ﾌｧｲﾄｫｰ!!楽しみにしてます♪ (2017年1月6日 21時) (レス) id: f2c4ea5338 (このIDを非表示/違反報告)
夏生まれ - 楽しみにしています！！ (2017年1月5日 19時) (レス) id: 80ea5835ea (このIDを非表示/違反報告)
駄人間K(プロフ) - 夏生まれさん» ありがとうございます！！ハピエン、最後にはみんな笑えるよう、これからも更新頑張っていきます！これからもよろしくお願いします！！！ (2017年1月5日 8時) (レス) id: c389418083 (このIDを非表示/違反報告)
夏生まれ - このお話好き！！ちょっと、切ないのがたまらない…けどハピエン期待してます！！ (2017年1月4日 22時) (レス) id: 80ea5835ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：駄人間K | 作成日時：2016年12月1日 10時
