No.34 愛について〜Agape〜 ページ45
sideユーリ
アップの時点から、既にどこかソワソワしていた。
それを『緊張してる』って言ったらそこまでなんだろうが。
「ユリオくん、出番そろそろだから準備して!」
「おう」
振り返ると、目を輝かせた優子の姿があった。
優子もヴィクトルのファンで、衣装を生で見れて興奮したらしい。
…顔から出るもの全部出ている。
それからリンクへ移動すると、Aの後ろ姿が見えた。
普段はあまり見ないその立ち姿に見とれていたら、目が合った。
「…ユリオ」
真剣なその声に、緊張が高まる。
「君は、勇利の持ち得ない才能をもってる。自分が今まで積み上げてきたものを信じて、それを発揮するんだ」
……ヴィクトルよりもはるかにコーチの適性あるんじゃないだろうか、この日本人。
「おう」
「ガンバ、ユリオ!」
優子とAに送り出されながら、俺は氷の上に立つ。
勝生勇利。
今日は何があろうと、絶対にお前に勝つ。
そして、ヴィクトルをロシアへ連れ帰るぞ。
_________♪
頭上で音楽が流れ出す。
たった一週間という短い期間で、やれること全部やって練習して来たんだ……。
勝ってやる。
俺のアガペー。
それは爺ちゃん。
『ユーラチカ』
あの優しく厳しい眼差しは、俺を励まして奮い立たせてくれる。
爺ちゃんのピロシキは美味い。
色んな爺ちゃんを思い浮かべながら、スケーティングをする。
クアド。
「…キッツ……」
徐々に余裕がなくなる体力。
爺ちゃんの事とか、考えられない…。
最後のスピン。
早く、終われ。
恐ろしく長い時間、ひたすらに動き続けているような疲労感だ。
ポージングを決めた。
_______こんな演技でカツ丼に勝てるわけが無い。
「………くそッ」
観客席に手を振ってリンクから上がる。
「お疲れ様」
優子とヴィクトルが声をかけてきた。
でも今はそれどころじゃねぇんだ…。
やり直したいところが山ほどあって、苛立ちが増す。
「今までの中では、一番いい演技だったかな」
Aからタオルとジャージを受け取って、スケートを脱ぐ。
「後半は…体力続かなくて、アガペーとかそれどころじゃなかった」
誰に言うでもなく、呟いた。
向こうから、カツ丼が来てリンクに入っていく。
勝生勇利、見せてみろよ。
あんたの意地ってやつを。
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駄人間K(プロフ) - ☆Rin☆さん» ありがとうございます!更新頑張ります!! (2017年1月6日 21時) (レス) id: c389418083 (このIDを非表示/違反報告)
☆Rin☆(プロフ) - この作品のおかげでユーリ沼にはまりそうで怖いです(笑)更新ヾ(〃^∇^)o ファイトォー!!楽しみにしてます♪ (2017年1月6日 21時) (レス) id: f2c4ea5338 (このIDを非表示/違反報告)
夏生まれ - 楽しみにしています!! (2017年1月5日 19時) (レス) id: 80ea5835ea (このIDを非表示/違反報告)
駄人間K(プロフ) - 夏生まれさん» ありがとうございます!!ハピエン、最後にはみんな笑えるよう、これからも更新頑張っていきます!これからもよろしくお願いします!!! (2017年1月5日 8時) (レス) id: c389418083 (このIDを非表示/違反報告)
夏生まれ - このお話好き!!ちょっと、切ないのがたまらない…けどハピエン期待してます!! (2017年1月4日 22時) (レス) id: 80ea5835ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:駄人間K | 作成日時:2016年12月1日 10時