問いの少女 (ページ13)

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希望の希ページ13

普通、というのは、
前にも同じことを考えてたことがあるように、
変化するものだ。

もしかしたら、先生は昔"特殊"で、
今はその傷を負いながらも"普通"扱いだったりするのではないかと思った。

でも、否定するのなら、
私にはどうしようもないし、話してくれるのを待つしかないのだ。

「先生」

「…どうかした？」

担当医は重々しく返事をした。

「先生は、衝動と規範、どちらに従いますか」

そう問うと、担当医はふわりと笑った。
しかし、答えが返ってくることはない。

どうして？

「…耳聞こえてないんですか？」

「いいや、しっかり聞こえているよ。」

なら何故…そう言おうとすると、
担当医は私の口を手で覆って塞いだ。
そして微笑んだまま首を振るのだ。

これが何を意味するのか、
私は少し考えたあと分かった。

"少し待って"の意味だ。
よく見れば、担当医の微笑みは諦めたような、仕方ないなとでも言うような笑みだった。

「……僕ね、喜怒哀楽がないんだ。正確に言えば、怒はあるんだけど。」

そう言うと、手を四の形にする。

「最初に無くなったと感じたのは、哀。それと同時に、喜も無くなった。目の前で、彼女が轢かれて居なくなっちゃったんだ。」

小指と薬指を折る。

「そして次に、楽。彼女が居なくなってから、五年後の事だった。」

中指を折る。

「最後に残った怒だけが、僕を人間にしてくれた。いつも衝動を突き動かすのは、怒だけ。他は、全部規範に盗られたかのように、無くなってさ。」

そう言うと担当医は手を下ろした。
顔は変わらず、微笑んでいる。

「僕、気持ち悪いでしょ。もう、何をやっても何も感じられないんだ。精神病院に行ったら、もう手遅れって。0に何をかけても0だって。」

"もう、どうでも、なんでも、良くなったんだ"

＿グサリと、私の心に何かが刺さった感覚が、した。