やぶくんとひかるくん【２】（短編集）

_２ ページ36

光side




『ただいま〜』



｢ ……… ｣



ホテルの部屋に虚しく響く、俺の声。



…分かってはいるけど、やっぱり返事はない。



俺が帰るといつも薮は、｢ひかるぅ〜！！｣って
苦しいくらいの力で抱きしめてくれたのに…。



口では『離れろ！』とか俺も言ってたけど


本当は薮の匂いに包まれてドキドキしてた…
なんて、口が裂けても絶対 言えない。



…って、俺やぶ大好き人間みたいじゃねぇかよ！！



『ほんっと、どうかしてるわ…』



もう、こういうときは別のことをして、
薮のことを忘れるに限る！！




ふと、目線の先に入ったのは俺のベース。

そう言えば、ここに来てから1回も弾いてねぇな…。





『初めて薮にこのベース持たせたとき、
すっげぇ変な持ち方してたな…笑』



コンサート裏の楽屋で
｢お前、ある意味天才だわ！｣って笑ったなぁ



あ…いけないいけない。
気がついたら薮のことを考えていた。

…やっぱ、ベースは終わりにしよう。





‘’ぐうぅぅ〜”

タイミングよく鳴った俺の腹。




…そうだ、まだ夜ご飯 食ってなかった。


冷蔵庫を見ると、卵しかなかった。


『しょうがねぇから、卵ごはんにするか…』


いつもだったら絶対そんなことしないけど、
わざわざ買い物に行くのも面倒臭ぇし、


…それに、薮のご飯もきっと卵ごはん。




｢ひかるの料理が1ヶ月もないなんて死んじゃう！
あ、卵31個買って毎日卵ごはん食おーかな笑｣

とか言ってたし、


実際 薮は卵ごはんすきだから
かなりの確率で食べているだろう。




レトルトの米に卵を割る。


ここで薮は醤油じゃなくって、
ゴマ油をかける。


だから俺も真似てゴマ油。



きっとここに薮がいたら、


｢ひかる！！ここは俺に任せろ！！｣


なんて言うくせに、
派手にひっくり返したりするんだろうなぁ



そういうところ、
本当にJr.の頃から変わんねぇんだよな。笑


…。


『あぁぁ〜〜もう！俺いつまで薮のこと考えてんだよ！！
忘れろ！！俺！！』




薮のことを考えると、胸が痛くなる。



この気持ちをかき消すように、
卵ごはんを胃袋に詰め込んだ。

_３→←寂しいの。

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す