∬∬ ページ22
.
もしかしたら、会社の人が目の前を通っているかもしれないというのに、実弥くんが大胆にも人目を憚らず落とした口付けは、甘い毒を宿して、私の中に棘を刺した。
「俺、Aさんのことちゃんと大切にしますよ。」
その眼差しは嘘偽りのない、真実そのものだった。
『待って、全然頭が追いつかないよ…』
引き剥がすように実弥くんの体を押した私の手をそっと包む手は、指先が少し冷たくて、緊張しているのが分かる。
「好きだって言ったら、分かってもらえます？」
牽制など効かない彼の猛攻に、成す術がない。
それでもどこか受け入れられないのは、私を臆病にした“夏の残像”なのかもしれない。
『私がもっと、若かったらなぁ。』
あの日、数分限りの恋人が言ったことを今になって自分が口にするなんて。
埋められない距離が此処にはあるんだ。
私は昔のように恋に焦がれるようなことはもう出来ない。
それだけ、私も大人になったのだ。
「そんなことで誤魔化すなよ。
俺がどんな思いで今日誘ったと思ってんの…？」
過去の自分と重ねた実弥くんは、私なんかよりずっと勇敢で、かつての私もこんな風に一歩踏み込めていたら、違う未来があったのだろうか。
『ごめん…』
「俺が聞きたいのは謝罪じゃなくて…
あァークソ、どうやったら伝わんだよ…」
『…伝わってるよ。
過去の傷が一気に痛み出すくらい、伝わってる。』
か細い声で俯いた私に、実弥くんは「ごめん」と呟いた。
『私がもっと無知な子供だったら、この手を掴んで
ずっと寄り添いたいと言っていたと思う。
でももうその気力は私には残ってないの。』
昔のように、ひと夏の恋に身を捧げるような事はしないし、身の丈に合った恋愛を平気で切り捨てたり、
危険な大人の恋を燻ったりはしない。
「なんか、Aさんが拒んでるのって俺じゃなくて
もっと違う何かなんじゃないすか？」
的を射抜くような鋭い実弥くんの視線と言葉に、
ヒリヒリと痛み出した感情が、ぴくりと息を潜めた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 94人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆきの(プロフ) - 伊黒小芭内めちゃくちゃよかったです！！凄い推してるのに，あんまり作品がないので．．．私，伊黒さんと宇髄さんと実弥さん好きなので，とても面白かったです！！！ (2022年2月28日 0時) (
レス) @page30 id: 979384fcc7 (このIDを非表示/違反報告)
羽糸(プロフ) - あさひゆうひさん» あさひちゃんも読みに来てくれてありがとなァ！！ちゃんと甘く書けてたのか不安だったから、そう言ってもらえて嬉しい！！ルビは最近1番気をつけてる(笑)一緒にお祝い出来て私も嬉しい❤️あさひちゃんのお話も最高だったゾ！！！！ (2021年11月29日 8時) (レス) id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)
羽糸(プロフ) - ひよさん» 早速読みに来てくれてありがとう！ハピエンを匂わせたままにしてたので、このタイミングでしっかり伏線回収させて頂きましたァ！！この実弥くんだから、夢主さんはやっと過去を清算できたのかな、と思ったり…。ひよちゃんのコメント力高すぎていつも文字数足りない(笑) (2021年11月29日 8時) (レス) id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)
あさひゆうひ(プロフ) - りりちゃん…！続きをありがとう！甘い!!!実弥さんの甘い言葉の数々にきゅん…素敵な誕生日のお話ありがとう!!!そして、ルビありがとう！助かります！（土下座）一緒に実弥さんのお誕生日お祝い出来てとっても嬉しいです♡ (2021年11月29日 0時) (レス) @page28 id: 9c7376e839 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - りりちゃん、実弥くんの続きを読ませてくれて本当にありがとう!! こうなってくれると良いな、と思いながらの完結だったので、素直に嬉しいです。過去の残像を払い除けられたのは、実弥くんだからか……お誕生日おめでとうございます…!! (2021年11月29日 0時) (レス) @page28 id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：羽糸 | 作成日時：2021年8月7日 20時
