或る夏の片蝶流し ページ18
#不死川実弥
『もう夏も終わりかぁ。』
お盆が明けたと同時に8月の終盤を告げる慌ただしい仕事の数々に、やっと一息ついた商談帰り。
電車に揺られながらぼんやりと呟いた一言が、呆気ない夏の終わりを浮き彫りにして、少し寂しくなった。
そうっすねェ…とボソリと言った部下の実弥くんは、吊り革に体重を預けるように背を丸めた。
「夏らしいことしました？」
そう書かれて記憶を辿るも、全くと言って良いほど
人に聞かせられるような話題は無い。
『してないなぁ。
あー、ここで何も言えないの、なんか虚しい。』
自嘲するように乾いた笑いを浮かべて、流れる景色を眺める。
私の隣でまだ新人の面影を残す実弥くんが、ぎこちなくネクタイを緩めてちらりとこちらを向いたのが、窓に映った景色の中でうっすらと見えた。
「俺も、地元でBBQしたくらいっすね。」
『良いじゃん、夏らしくて。
私はここ数年ずっとこんな感じだよ…
もう何年も浴衣とか着てないし。』
久々に着たいなぁ、と嘆いていると、実弥くんは何も言わずにポケットからスマホを取り出して何やら急に調べ物を始めた。
「Aさん、諦めるのはまだ早いっすよ。」
少し自慢げに笑った実弥くんがスマホの画面を私に向けた。
来週末、この辺りでお祭りがあるようだ。
『本当だ、お祭りあるね。』
昨年の写真を見れば、屋台が軒を並べる様子に、それだけで胸が躍った。
「…行きます？」
『へ…？』
思わず間抜けな声を出した私は、スマホの画面から目を離して実弥くんを見上げた。
「浴衣、着たいって言ってたんでェ…」
少し、照れたように視線を泳がせた実弥くんが、返事を煽ぐように私を見た。
『いや、言ったけど…
実弥くんまで付き合うこと無いんだよ？』
流石に5歳も歳の離れた部下をプライベートの予定に巻き込むほど、私は愚かではない。
「別に良いっつーか…
俺も、行きたいんで…ダメすか？」
普段は淡々と仕事をこなすクールな彼が見せた、年下らしい可愛げは、私の心を掴んで離さない。
分かっていてやっているのだとしたら、策士だと思うし、無自覚でやっているのだとしたら、天然の年上ホイホイだ。
『まさか、社内営業？
本当、抜け目ないなぁ〜。』
私は茶化すことしか出来なかった。
少しでも間に受けたと、悟られてはいけない気がしたから。
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ゆきの(プロフ) - 伊黒小芭内めちゃくちゃよかったです！！凄い推してるのに，あんまり作品がないので．．．私，伊黒さんと宇髄さんと実弥さん好きなので，とても面白かったです！！！ (2022年2月28日 0時) (
レス) @page30 id: 979384fcc7 (このIDを非表示/違反報告)
羽糸(プロフ) - あさひゆうひさん» あさひちゃんも読みに来てくれてありがとなァ！！ちゃんと甘く書けてたのか不安だったから、そう言ってもらえて嬉しい！！ルビは最近1番気をつけてる(笑)一緒にお祝い出来て私も嬉しい❤️あさひちゃんのお話も最高だったゾ！！！！ (2021年11月29日 8時) (レス) id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)
羽糸(プロフ) - ひよさん» 早速読みに来てくれてありがとう！ハピエンを匂わせたままにしてたので、このタイミングでしっかり伏線回収させて頂きましたァ！！この実弥くんだから、夢主さんはやっと過去を清算できたのかな、と思ったり…。ひよちゃんのコメント力高すぎていつも文字数足りない(笑) (2021年11月29日 8時) (レス) id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)
あさひゆうひ(プロフ) - りりちゃん…！続きをありがとう！甘い!!!実弥さんの甘い言葉の数々にきゅん…素敵な誕生日のお話ありがとう!!!そして、ルビありがとう！助かります！（土下座）一緒に実弥さんのお誕生日お祝い出来てとっても嬉しいです♡ (2021年11月29日 0時) (レス) @page28 id: 9c7376e839 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - りりちゃん、実弥くんの続きを読ませてくれて本当にありがとう!! こうなってくれると良いな、と思いながらの完結だったので、素直に嬉しいです。過去の残像を払い除けられたのは、実弥くんだからか……お誕生日おめでとうございます…!! (2021年11月29日 0時) (レス) @page28 id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：羽糸 | 作成日時：2021年8月7日 20時
