＄＄※ ページ3
.
暫く何も言わずにこちらを見ていた伊黒さんが、有難う、といって私の手から水を受け取った。
ゴク、ゴク、という音と共に上下する喉仏が色っぽくて、喉の渇きとは違う、焦燥のような渇きが私を埋め尽くした。
よく考えたら、間接キスだ。
マスクをずらして露わになった色素が薄めの造形美な唇が飲み口に触れて、艶めく。
「あぁ、ダメだな…」
水を私に返しながらボソリと呟くように言ったその一言がどういう意味なのか分からず、聞き返す。
「…酔いが回って、抜けそうにない。
自分でも言動がちぐはぐで理解が追いつかない。」
『そうですか？
一見まともな感じがしますけど…』
「まともな訳がないだろう。
君を帰さなければいけないのに、今もずっと君を
引き留める口実を探しているんだから。」
『どうして、ですか…？』
愚問なのは分かっていた。
もう既にどうにかなってしまいそうな心を欲張りな
好奇心が更に煽って、私も十分にちぐはぐだ。
「理屈が罷り通るものならこんな風にはならない。」
『私は…帰りたくないですよ？』
こんなにも大胆なことが自分で言えるなんて、恋の力は恐ろしい。
「どういう事か分かって言っているんだろうな？」
妖艶に目を細めた伊黒さんが、私の手を握った。
その手に指を絡めれば、もう後戻りする選択肢など
残されなかった。
初めて行く一人暮らしの部屋。
あまりにも整理され過ぎたその部屋は、生活感を感じない、伊黒さんそのものだった。
体現し難い清潔感の香りと、自我を食い潰すアルコールの匂いが合わさって、絡めた舌から沸き立つような熱が流れ込む。
甘く危険な大人の世界に放り出された私は身動きすら出来なかった。
行為自体はこれが初めてではないのに、全てが未知であるかのように感じるほど、自分の未熟さが浮き彫りになった。
少しでも近付けるのなら、何だって良かった。
このままこの夏が終わってしまえば、この先伊黒さんとの接点が絶たれてしまう、その事実を恐れた私は、
求め合うまま正直に、全ての留め金を外した。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 94人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆきの(プロフ) - 伊黒小芭内めちゃくちゃよかったです！！凄い推してるのに，あんまり作品がないので．．．私，伊黒さんと宇髄さんと実弥さん好きなので，とても面白かったです！！！ (2022年2月28日 0時) (
レス) @page30 id: 979384fcc7 (このIDを非表示/違反報告)
羽糸(プロフ) - あさひゆうひさん» あさひちゃんも読みに来てくれてありがとなァ！！ちゃんと甘く書けてたのか不安だったから、そう言ってもらえて嬉しい！！ルビは最近1番気をつけてる(笑)一緒にお祝い出来て私も嬉しい❤️あさひちゃんのお話も最高だったゾ！！！！ (2021年11月29日 8時) (レス) id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)
羽糸(プロフ) - ひよさん» 早速読みに来てくれてありがとう！ハピエンを匂わせたままにしてたので、このタイミングでしっかり伏線回収させて頂きましたァ！！この実弥くんだから、夢主さんはやっと過去を清算できたのかな、と思ったり…。ひよちゃんのコメント力高すぎていつも文字数足りない(笑) (2021年11月29日 8時) (レス) id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)
あさひゆうひ(プロフ) - りりちゃん…！続きをありがとう！甘い!!!実弥さんの甘い言葉の数々にきゅん…素敵な誕生日のお話ありがとう!!!そして、ルビありがとう！助かります！（土下座）一緒に実弥さんのお誕生日お祝い出来てとっても嬉しいです♡ (2021年11月29日 0時) (レス) @page28 id: 9c7376e839 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - りりちゃん、実弥くんの続きを読ませてくれて本当にありがとう!! こうなってくれると良いな、と思いながらの完結だったので、素直に嬉しいです。過去の残像を払い除けられたのは、実弥くんだからか……お誕生日おめでとうございます…!! (2021年11月29日 0時) (レス) @page28 id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：羽糸 | 作成日時：2021年8月7日 20時
