地獄ではない (ページ12)

今日:3 hit、昨日:1 hit、合計:7,776 hit

＊ページ12

「・・・育ててやった恩？

ふざけるな

自分の子供に暴力を振るうことしかしないことが"恩"なんだったら

俺はそんな親必要ない

俺だって本当は

寂しかった

辛かった

・・・愛されたかったよ！

あんたみたいなどうしようもない親でも

・・・俺にとってはたった1人の家族だったから

全部！全部！

あんたが壊したんじゃないか！！」

ずっとずっとふり積もった思いが涙とともに溢れてくる

それでも、もう完全に狂ってしまった父親に俺の思いが届くことは無く

俺に向かって包丁が振り下ろされる

死を覚悟し、目をつぶった

次の瞬間

横に大きく突き飛ばされる感覚と

サクッともグシャッともとれる

なにか柔らかいものを突き刺すような
そんな音が聞こえて

床に倒れ込んだ俺の上に

ゆっくりと
まるでスローモーションのように

ヒカルにいが覆いかぶさってきた

「は・・・え・・・」

咄嗟に状況が判断できずヒカルにいの顔を凝視すると

脂汗をかいて、苦しそうにしながらも無理やり微笑んで、俺にこう囁いた

照「気に、すんじゃねえぞ・・お前のせ、いじゃないからな。
俺が、勝手に、、、やった、ことだ。」

ああ、ヒカルにいは、おれを庇って

刺されたのか、と

馬鹿で、未熟な俺はようやく気づいて

次ハッと気づいた時

俺の手には包丁がしっかり握られ、目の前には

父親"だった"男が血まみれで倒れていた

父親の方には目もくれず、包丁を投げ捨て慌ててヒカルにいの方へ駆け寄る

その腹部からは今も血が流れ出ていて、もう着ていたパーカーの本来の色も分からなくなっていたけど

まだ息はあった

「あ、そだ・・・！119番・・！」

救急車を呼べば助かるかもしれない

その一心で携帯を掴んだ腕は
ヒカルにいによって止められた

照「やめろ、ジェス・・このきずだ・・・。いまさらきゅうきゅうしゃよんでも、たぶんたすからねぇよ。」

「そんなの分かんないじゃん！ヒカルにいが諦めてどうすんの？」

悔しかった

認めたくなかった

大好きな先輩が、俺に沢山の「初めて」を教えてくれた先輩が

ただ冷たくなっていくのを見ているだけなんて
俺にはどうしても出来なかった

それでも目の前のこの人は
全てを受け入れたかのような笑顔で首を横に振った