地獄ではない (ページ2)

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その人は

『おっ、生きてた。よかったあ・・・

仕事の後でまた死体見ることになるとこだったわ。

・・・こんなとこで、何してるの？
うち帰れるの？』

少しハスキーで落ち着いてて、聞いたこともないはずなのに不思議と安心できる声だった

薄目を開けてみると

フードを被って、心配そうに眉をひそめる黒目がちのくりくりした瞳の男と目が合う

・・・お兄さんこそ、こんなとこで何やってるの？

てか、そもそも誰？

なんで俺に声かけたの？

なんて質問とは全く関係ないことが次々と脳内に浮かんできたけど

それらを聞く体力すら残ってなくて

結局俺は力なく首を横に振ることしか出来なかった

『そっかあ・・・家ないんだ・・・』

そう言ってしばらく黙り込むお兄さん

言っとくけど追い剥ぎしようとしても無駄だよ
財布どころか、携帯だってあの家に置いてきたんだ

もしかして俺、体売られちゃう？
なんて、こんな180超えた大男誰が買うんだよ

もう、いいからさ

下手な同情なんてかけられた方が辛いんだよ

どうせ生きてたってしょうがないんだから

お願いだから

「ほっといてく『じゃあさ、うち来なよ！』

・

・

・・・・・・・・は？

ウチキナヨ？

え、何言ってるのこの人怖い

思わず目の前の瞳を凝視するけど、雨に濡れたアスファルトを反射してキラキラ光る目はふざけてるようには見えない

『どうせ帰るとこないんでしょ？じゃあうち来ればいいじゃん！あ、俺1人じゃないよ。あと4人いるんだけど。まあ家着いたら紹介するから。』

・・・HAHA、人間って自分の理解できるキャパ超えたらもう面白くなるんだ

でもそれはそれでいいかもな
どうせ一度は捨てた人生だ

この先どうなろうと、これ以上悪くなることは無いだろう。それならいっそこの人について行くのもアリかもしれない

『どーする？

俺に、助けられてみる？』

囁かれて気づいたら俺は

「助けて、ください・・・」

掠れた声で、そう答えていた

あっという間にふわっと抱き抱えられて、何か暖かいものに包まれてるような錯覚に陥る

今度こそ意識を失いかけるその瞬間

男からふわっと血の匂いがした、気がした