四本目 ページ49
節松家の前に立つ。小さい頃はよく遊びに来たものだ。古冬君はまだ戻ってきてないのだろうか。
「…おい。誰かいるか」
「は、何の御用で?」
「本家の竹梅聡だ。希夏を運んできた」
「ははぁ」
…この老婆も懐かしい。子供の時はいろんな話を聞かせて、お菓子を食べさせてくれたものだ。
「大きくなられましたねぇ、聡様」
「久しぶりだな。まだ生きていたのか」
「婆はこの程度でくたばりはしませぬ。まだまだ現役でございますよ」
平和だ。春子さんが出てこなければいいが…
「…あ」
「?」
廊下から長い水色の髪を下ろしている少女が出てきた。…誰だ?水色の髪ということは節松家の血筋だろうが…
「…聡様。いらっしゃい」
「その声…もしかして、秋菜?」
「…はい」
節松家の次女、秋菜。春子さんとは違い、大人しい性格でどちらかと言えば地味。演出の方を手伝っているらしいが、実は姿を見たことがなかった。そのため、最後の記憶は12年前…俺が四歳、彼女は五歳の時だ。
「久しぶりだな」
「…兄さんが倒れたんですか?」
「あぁ。急に顔を真っ赤にして…」
「…」
俺よりは一歳年上。歳は近いが男女の差があるため小さい頃はなかなか一緒に遊ばなかった。自己紹介をしてからまともに話すのはこれが初めてかもしれない。
「…姉さんはすぐ帰ってくると思いますよ」
「そうか。じゃあさっさと帰らなきゃいけないな」
極力あの人とは会いたくない。それに、好みの問題だが年上の女性は正直タイプじゃない。
「…あのっ」
「ん、どうした?」
「…に、兄さんを送っていただいてありがとうございます」
「別にお礼なんかいい。その場に居たのは俺だけだったし、置いて帰るのも忍びないからな」
それに希夏さんにはお世話になっている。恩を仇で返す様な真似をしたくないからな。
「…そう、ですよね…」
「それじゃあ俺は帰る。またな、秋菜」
「…気を付けてお帰りください」
「あぁ」
秋菜に見送られ外に出る。敷地内から出たあたりで見知った影が見え、嫌いな香水の香りが漂ってきた。
「聡様!いらっしゃるならお電話をくだされば私がおもてなしいたしましたのに…」
「…春子さん。お帰りなさい」
節松春子。節松家の長女で、俺の許嫁。21歳で、今は化粧品会社で働いているらしい。…それもあって、かなり化粧をして香水もつけている。そして俺にベタベタしてくる。香水の匂いが服に着くからやめてほしい。
「希夏さんを送っただけですからお気になさらず。それじゃあ」
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作者名:future*show | 作者ホームページ:
作成日時:2020年12月3日 17時