* ページ37
深澤side
ざーざー、と音が聞こえてくる。
失っていた意識が戻ってくる感覚がして、ゆっくりと目を開ける。
「………ぉ、れ…」
辺りは雨が降っているせいかモヤがかかっていて、遠くの景色はもちろんほんの2m先すらも見えなくなっていた。
眼球を動かしてなんとなく周りを見回してみる。同じような木に囲まれているが、自分が先程までいた場所とはまったく違うことがわかった。
ああ、そっか。俺さっき、落ちたんだっけ。
倒れている身体を起き上がらせようと腕に力を込める。と、途端にズキンと痛みが迸り、込めていた力が一気に失われて地面へと逆戻りしてしまった。
マジかよ、と思ったが、まあ転がり落ちたら打撲するわな、となぜか冷静に納得し横たわったまま深呼吸をする。
ロケ中なのにな。これじゃ中止になっちゃうかな。
というかみんなはどうしてんだろ。俺のこと捜しに来てくれんのかな、もしかしたら誰も気づいてなかったりして。
「……いや、それはないか、さすがに」
車の中で聞いた阿部ちゃんの天気予報は大当たりだったようで、先程まで曇り空だったのがいつの間にか大きな雨雲に変わっていて、容赦なく降り続ける雨粒が倒れた俺の身体を冷やしていく。
どこか雨宿りできる場所が無いか探そうと思ったが、身体が痛くて動かないということを思い出しすぐに諦めた。
だが、ずっとこのままではさすがに風邪を引いてしまう。酷ければ体温が根こそぎ奪われて、また意識を失ってしまう可能性だってある。
さっきの腕の痛みをまた浴びるのは嫌だったが、自分のため、ひいてはみんなのためだ。痛みを我慢して起き上がろうとしたその時、方角はわからないが遠くから声が聞こえてきた。
__か、___!!
「……だれ、」
ふ、__!__か_!!
__えて__、へ__して!!
__か、ふ__か!!
「___ふっか!!!!」
だんだんと近づいてくるその声は、とても聞き覚えがあった。
何年も何十年も前から聞いていた声。
俺の、大好きな、大切な、メンバーで。
__シンメのあいつの声。
「……、…ひか、」
喉が開かなくて大きな声を出せない。
それでも諦めずに、何度もそいつの名前を呼ぶ。
俺の名前を何度も何度も呼んでくれる、あいつの名前。
「…、っ…ひかる、ひ、かる、!」
「ふっか!!!!!」
黄色いつなぎが見えた途端、酷く安心してしまって。
俺はまた、意識を遠くへ飛ばしてしまった。
682人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
香さん - しょっぴーのだてさんの呼び方を良太にするともっといいと思います (12月2日 20時) (レス) @page22 id: 5b7efd0466 (このIDを非表示/違反報告)
さんかっけい(プロフ) - みりぃ(緑璃)さん» ご感想ありがとうございます…!励みになります(_ _)今後も精進して参りますのでよろしくお願いいたします! (2022年12月22日 20時) (レス) id: 354f0ed835 (このIDを非表示/違反報告)
みりぃ(緑璃)(プロフ) - テンポのいい文章が読んでてとても心地良いです。これからも更新を楽しみにしてます (2022年12月22日 17時) (レス) @page44 id: e9c37a05cd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:さんかっけい | 作成日時:2022年12月4日 2時