離れたのはこっち。/緑 ページ11
3ヶ月くらい前、ある局にいる時だけ視線を感じるようになった。熱心なファンの方でもいるのかなと思ってた。
1ヶ月くらい前、その視線の主であろう人から声をかけられた。その人はあるクイズ番組のADさんだった。
「実は阿部さんのファンなんです」と言われ、嬉しかった。
2週間くらい前、また同じ番組に呼ばれ、ADさんとお話する機会があった。どうやら娘さんも俺らのファンらしく、親子揃ってファンだなんてありがたいなと思った。
「そういえば、冠番組も担当することになったんです」とも言われた。スタッフさんと話す機会はそうそう無いので、素直に嬉しかった。
そして、昨日。
冠番組の収録があった日。
ADさんに「阿部さんに少しご相談したいことがあって」と呼び止められた。
この後の仕事は特に無くフリーだったため、着替えたあとマネージャーに連絡を入れて、その人の待つ会議室へと向かった。
今思えば、グループとしてではなく俺個人だったこと、ディレクターさんならまだしもADさんからの相談事なんて滅多に無いこと、挙げればキリが無いけれど。
不審な部分はいくつもあったのに、その時の俺はスタッフさんと仲良くなれたことが嬉しくて、考えることができなかった。
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局の隅の奥のほう、絶対誰も近寄らないであろう会議室。
明かりは点いているはずなのにどこか仄暗い。使われていないせいか少し埃っぽい気もした。
コンコンと控えめなノックをしてからドアノブを捻ってドアを開ける。
「失礼します、阿部です」
「…ああ、阿部さん」
「すみません、お待たせしてしまって」
待たせるのは圧倒的にこちら側が悪いのだけれど、普段の彼だったら優しく笑って許してくれるだろう。
それをわかっていて少し笑いながら言うと、彼は無表情で俺のことを見つめていた。
「…え、ぇっと」
「ねえ阿部さん、今日なぜ僕があなたをお呼びしたかわかります?」
「…相談があると聞いた、んですけど」
そう言うと、彼は少し微笑み静かに肩を揺らしながら笑い始めた。
「はは、まさか。そんなわけないでしょう、こんなどうでもいいAD1人がアイドルのあなたに相談事なんて無い無い」
「…じゃあ、なんで」
「僕、昔からあなたみたいな八方美人な人、嫌いなんですよ」
_だから、僕の憂さ晴らしにちょっと付き合ってくれないか。
「……っていうお誘いです」
そう言って彼は俺の肩を叩き、部屋から出て行ってしまった。
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香さん - しょっぴーのだてさんの呼び方を良太にするともっといいと思います (12月2日 20時) (レス) @page22 id: 5b7efd0466 (このIDを非表示/違反報告)
さんかっけい(プロフ) - みりぃ(緑璃)さん» ご感想ありがとうございます…!励みになります(_ _)今後も精進して参りますのでよろしくお願いいたします! (2022年12月22日 20時) (レス) id: 354f0ed835 (このIDを非表示/違反報告)
みりぃ(緑璃)(プロフ) - テンポのいい文章が読んでてとても心地良いです。これからも更新を楽しみにしてます (2022年12月22日 17時) (レス) @page44 id: e9c37a05cd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さんかっけい | 作成日時:2022年12月4日 2時