S28 ページ28
合宿から帰ってきたその日、私は疲れてしまって、ジャージのままベッドに飛び込んだ。
こんなことしてたら、そのうち寝てしまうことなんて目に見えていたのに。
まあ明日は休みだしいいか、なんて面倒くさくて諦めるのもいつもの癖だ。
「色々、ありすぎたな…」
呟いて枕に顔を埋めていると、枕元に置いたスマホが着信音を鳴らし震えた。
画面に表示されていたのは菅さんからのメッセージ。
眠気に襲われかけていた私の頭も、その一瞬で信じられないほど冴える。
『合宿お疲れ。本当疲れてるとこ悪いけど、会いたい』
そう綴られていた。
私はすぐにそのメッセージを開いて、返事を打った。
『お疲れ様です、全然大丈夫です』
そこまで打って、一度文字を全て消した。
『私も会いたいです』
既読がつく。
『行く、待ってろ』
端的な言葉に胸が高鳴った。文字を通しただけでも、こんなにドキドキするなんて。
菅さんは、本当にずるいひと。
数十分後、また彼からメッセージを受信した。
家の前まで来たから出てきて欲しい、と、そんな風なことが書かれていて、私は迷わず一階へ降りる。
カチャン、と音を立てた扉の先には、水色のマフラーに顔を埋めて立っている菅さんがいて。
ひらひら、ほんのり赤く染まった指先が振れる。
「菅さん…、」
私は惹き付けられるみたいに彼に歩み寄った。
「お待たせ」
菅さんの前で足を止めようとしたのだけれど、彼はそのままぐっと私を引き寄せて、暖かい胸の中に閉じ込めた。
驚いたのは束の間で、私も躊躇い無く、菅さんの背中に手を回して抱き締めた。
「好きだ、A…」
覆い被さる菅さんの体を、私は精一杯受け止めた。
幸せで、こんな気持ちでいられることが、凄く嬉しくて泣いてしまいそうだった。
「付き合おう」
耳元で囁かれたその言葉を、私は絶対に忘れないと思った。
「はい、」
体が少しだけ離されて、彼は私の頬を愛おしそうに撫でてくれた。
額が触れて、鼻先が触れた。
ゆっくり、目の前でスローモーションのように時が進んで、つま先で背伸びをした。
柔らかく唇が重なった時、私はこの人を絶対に離したくないって、強くそう思ったんだ。
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作者名：ちゃんきき | 作成日時：2018年5月6日 10時
