おねがいだから失わせて【wrwrd】 (ページ1)

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私の能力が目覚めたのは中学校一年生の頃の夏休みだった。その日は記録的猛暑で「暑いね」と言い合いながら、友達皆でアイスを食べていたのを思い出す。

その時、あまりにも暑いから、皆でプールに行こうって話になった。近くの市民プールまで走って走って走りまくった。どうせ、プールに入ってスッキリするんだし、折角なら汗を死ぬ程かいておこう…という何とも子供らしい発想だったと記憶している。

その時、走っているときに振っていた腕の肘が偶然、隣を走っていた男の子に当たってしまった。

「あ、ごめんね」

と片手で"ごめん"というポーズを取った。でも、その男の子からの返答はなくて。不思議に思いながらも、私は走る速度をあげて、足の速い友達を横並びになりながら、"夏休みの宿題は終わったか"とか、"次は何して遊ぼう"等色んな会話を繰り広げていた時。

グイッと腕を掴まれて、思わずバランスを崩してしまい、ペタンッと尻もちを付いてしまった。私は腕を掴んだ人に文句を言おうと思い、後ろを睨みつけながら向くと、其処には、さっき肘が当たってしまった男の子は立っていた。でも、様子が何処か可笑しい。

顔は変に日照っていて、目を虚ろ、それに凄くボーッとした顔をしている。もしかしたら、熱中症になりかけているのかも…何となくそう感じた私は、友人に一応の事情を説明して、彼を近くの日陰に休ませたのだ。

さっきよりも元気にはなったものの、やはり様子が可笑しい彼が少し不安になり、覗き込もうとした時、パシッと手を掴まれる。吃驚して彼の方を見つめると

「…何で、俺以外の奴と話すん」

といつもの彼の声からはとても考えられない程低い声で呟かれた。でも、当時の私はバカだったから
「駄目なの？」と首を傾げる事しか出来なかった。

そう言うと、彼は薄く弧を浮かべ、中学生とは思えない程、妖艶な手付きで、私の手に自分の手を絡めてくる。そして、ゆっくりとした口調で耳元に囁いてきた。

流石に何と言ったかまではもう覚えていない。けれど、その時の私は、胸に込み上げてくるよく分からない熱い感情と、恐怖心という対の感情が同時に表れた。私は彼の手を振り払い、急いで家に帰った。

もうプールの事なんてもう頭の中にはなかった。ただ、あの時の耳に掛かった柔らかで生温い吐息だけがずっと耳にこびり付いていた。