中途半端でも熱が欲しい ページ43
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｢あー……と、それから…｣
驚きを隠せないAに、俺は少しバツの悪い気持ちになって顎を撫でたけど。
ふぅー、と長く息を吐き出して、これから紡ぐ言葉を整理してから口を開いた。
｢まだ誰にも言っていないけど、このまま結果を残せたら4年後にメジャーに行こうと思う｣
｢えっ、本当ですか？！｣
俺の長年の夢。念願のメジャーリーグ行き。
まだまだ小さな光ではあるけれど、漸くそこに行き着くための明るい道筋が見えてきたんだ。
近い将来、俺はメジャーに行く。
必ず、夢を実現してみせる。
｢凄いじゃないですか｣
Aは嬉しそうに笑った。
｢いよいよ、なんですね｣
まるで自分の事かのように
｢先輩のファン第1号として、精一杯応援します｣
下唇を噛んで、泣くのを必死に堪えながら。
健気なその姿に心臓がキュッと鳴った。
突き動かされるように椅子から立ち上がり、ベッドに座る彼女の横に並んで座る。
そして膝の上で泣かないようにと震えている彼女の掌の上に、そっと自分のを重ね。
｢だからAも、英会話マスターしといて｣
｢……！｣
｢大学卒業まで待ってるから………留年するなよ｣
―――それまでには野球と恋愛、両立させるから。
俺はどうかしてる。
今は恋愛しないとか言っておきながら、結局はAのいない生活を考えることなんて出来ないんだ。
｢うぅ……っ、せんぱぁぁいっ｣
｢うわっ｣
勢いよく抱きつかれて身体が反り返る。
｢好きっ！先輩、大好きーっ｣
｢わかったわかった｣
｢絶対わかってないっ｣
がしり、と引っ付いてくるAの行動に呆れながらも、そんな彼女を嫌ではないと思う自分がいる。
｢わかってるって。4年も一緒にいるんだから｣
今更何言ったってAが俺の元から離れることはないだろう、と思うのは諦めなのか。それとも自信なのか。
この気持ちはよく分からないけど。
とりあえず今の俺は、Aを拒んだりはしない。
宥めるように、彼女の頭を撫でた。
今、この時くらいは、甘やかしてやろう、と。
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作者名：肴 | 作成日時：2019年4月9日 21時
