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｢…どうしたらいいんですかね｣
口から衝いて出たのは、弱気な言葉だった。
｢俺はアイツの気持ちを知っていながら、それに応えることから目を背けていました。ちょうど良い距離感が心地よくて……文句一つ言わないことに甘えていたんです｣
珍しい俺の弱気なセリフに、佑樹さんも翔さんも初めこそ驚いていたけど、静かにまっすぐ目を向けて聞いてくれている。
｢たくさん振り回して悪いとは思ってるんです。だから俺はやめておけって思うんですけど……手放したくないっていう想いもあって｣
矛盾だらけだ。
野球のことなら、すぐに分別をつけられるのに。
Aの事となると、どうも調子が狂う。
｢あとどのくらいかって明確な数字は出せないのに……待っててほしいって思ってるんですよね｣
そんな縛り付けるような言葉が、よくないのは分かってる。
Aは自由でいればいい。
俺を好きでいるのも、やめて他の人を好きになるのも。全部彼女の自由なんだ。
口ではそう言っているのに……俺は見えない鎖をAの首に巻いている。
目が届く範囲では自由にさせておきながら、いざ離れようとすると平気でその鎖を手繰り寄せるんだ。
俺から離れるのは許さないとばりに。
きっとAも、自分の首に緩く締められたそれに気付いている。
だけど、彼女自身もそれを取ろうとはしない。すぐに頭から引き抜けるくらいの隙間はあるのに。
まるで自らそれを望んでいるかのような。
そんな、不確かで曖昧な関係なんだ。俺たちは。
｢いいんじゃないの、今はそれでも｣
暫く無言だった佑樹さんが口を開いた。
｢お互いがその関係で納得しているなら、それで｣
｢……ですけど、｣
｢それでもダメなら、また違う関わり方を考えればいい。正式に付き合っていない以上、キミたちには制約もルールもないんだから｣
｢……｣
｢せやな。それで相手が納得しているなら。今は彼女に甘えて、野球とそれ以外との両立を頑張るしかない｣
｢両立……｣
｢んで、それが出来るようになったら、胸張って迎えに行けばいい。その分今度は、たくさん甘やかしてやらんとな｣
中田さんの言葉に俺は口を紡いだ。
今は……これでいいのか。
無理して前に進もうとしなくても。
それでも、Aが待っていてくれると言うなら。
〈 いつか迎えに行くその日まで 〉
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作者名：肴 | 作成日時：2019年4月9日 21時
