例え幻聴だろうと構わない ページ29
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カッコ悪いところなんて見せられない。
……なんて意気込んでいたのに。
2回表で相手チームの外国人選手にホームランを打たれてしまった。
ランナーはいなかったとはいえ、得点が入る。
その後のファイターズの攻撃では、いい線まで行くのに点までは結びつかず。完全に相手チームのペースに飲まれてしまっている。
そんな流れの中、8回表で今度は違う選手にホームランを打たれてしまった。
広島は2得点になり、ファイターズはまだ得点を入れられていない。
結局8回裏でも点を取れず、9回表で広島の攻撃。
そしてバッターボックスに入ったのは、最初にホームランを打たれた外国人選手だった。
これは良くない流れだと、全身がヒシヒシと感じている。手の先が痺れるような感覚がして、ボールを上手く掴めない。
焦っているんだ。
珍しく、この俺が。
ここで1点でも取られたら、今の流れ的にファイターズが逆転するのは難しい。何がなんでも、この雰囲気を打破しなくてはいけないんだ。
それは分かっているのに、肩の力が入りすぎてしまう。そのせいか、1球目も2球目もボールだった。
今朝まではあれだけ調子良かったのに。
チームの期待に応えるはずだったのに。
俺は、弱い―――
―――大丈夫、信じてるから。
優しい声が聞こえた気がした。
あたたかくて、でも強く背中を押してくれるような。
その声が聞こえたのと同時に、ネガティブな気持ちに押し負かされていた闘志が一瞬で奮い立たってきて。
思うより先に腕を振り上げていた。
―――パンッ
―――ワァァァッ
球場内が歓声で大きく響く。
審判のストライク判定に気を取られて最初は分からなかったけど、キャッチャーから返ってきたボールを受け取りマウンドに戻るため振り返ると、エキシビションには“160キロ”と表示されていた。
これは俺の自己最速記録でもあり、パ・リーグでは史上最高速度でもある。
それを今、この押し潰れそうなプレッシャーの中で俺はやってみせたんだ。
―――Aの声が、背中を押してくれたから。
〈 例え幻聴だろうと構わない 〉
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作者名：肴 | 作成日時：2019年4月9日 21時
