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俺は不器用だ。
昔から野球にばかり時間を費やしていたせいからなのか、野球とそれ以外の事を両立するのが苦手だった。
両立しようとしてリズムが乱れて気が散ってしまうより、野球だけに集中していた方が得だし、気が楽だと思っているから。
そんな俺の性格を、監督は分かっている。
俺の口から直接言ったことはないけど、俺がAと会っていることは他の選手やコーチから聞いてたはず。
だけどそこに口を挟んで来なかったのは“野球とプライベートと両立出来るのなら構わない”と思っていたからだと思う。
だけど門限を破ったとなれば話は別だ。
それでも問答無用に会うなとは言わず、｢両立出来ないのなら女と会うな｣と言ったのは、監督の優しさであり、俺への期待なんだ。
何事も両立出来るようになれ。
器用にこなせるメンタルを持て。
人間的にも成長しろ、と。
俺は、それに応える必要がある。
野球を続けていく上で、人間性をスキルアップするのは重要な事だと思うし、いつか野球以外にも夢中になれる趣味を見つけた時に、両立出来なくてはやっていけない。
だからこれは、俺が一つ上の段階にステップアップするための試練なんだ。
最近は球速やバッティングばかりに気を取られてしまっていたけど。監督の言葉で、原点に戻った気がした。
―――必ず結果を残します！両立してみせます！
―――だから……俺の言葉が本物だって分かったら。
―――認めてくれますか。
｢やってみろ｣と言われると、｢やってやる｣と思う。
強硬な壁があるほど、俺は燃えるタイプだから。
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それから1ヶ月。
明日佳とは、あの日以来会っていないし、連絡も取ってない。おそらく試合観戦にも来ていないと思う。
でも正直、今は連絡がなくていいと思う。
門限を破った罰として、自分なりにケジメが必要だと思ったし。
それに、その分野球に集中出来た。
トレーニング中の球速は分からないけど、160キロを超えたなと思う感覚は何度もあったし。
このまま、この感じをキープしていきたい。
そして他の事も両立出来るようになりたい。
やっぱプロとして、スターと呼ばれる地位にいたいんだ。
自分自身の為にも。
ここまで育ててくれた両親のためにも。
俺を選んでくれた監督とファイターズのためにも。
応援してくれるファンのためにも。
俺を信じてくれる、Aのためにも。
〈 甘いものはしばらくおあずけ〉
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作者名：肴 | 作成日時：2019年4月9日 21時
