これからの世界

犬も食わない3 ページ3

「待って！いのおちゃん！！」
「お願い！待ってよ！話聞いてよ！」


聞き馴染みのあるエースのなんとも情けない声が遠くからどんどんと楽屋に近付いてくる

結局良い案も浮かばぬまま、この会議の議題主たちが楽屋に入ってきてしまう

もう自分たちにはやるべき事などない。見守ろう。と半数は遠い目。残る半数は、これこら何が起こるのか心配する目で楽屋の入口を見つめた


「おはよ〜」


のんびりとした口調でいつも通り入ってきた伊野尾。
にすがりつくように伊野尾の服を後ろから掴んで今にも涙がこぼれそうな山田。

覚悟はしていたがいつも仲良くハートをそこらじゅうに撒き散らしてる2人とは全く違う様子に、それぞれが頬を引き攣らせながら「お、おはよう」と返すのが精一杯だった


「信じられない…山ちゃんがとても外に出られる様な格好せずに来るなんて」

岡本が何度も目を擦りながら確認しても、そこにはファッションに定評のある山田とは思えぬ服の組み合わせの彼が


「どうせ朝から伊野ちゃんに泣きついてて自分の用意なんて二の次だったんでしょ」


ほんと分かりやすいよね。とスマホゲームから目を離さずに呟く知念に、「なるほど…」と納得する岡本


「高木か大ちゃん、伊野尾に何があったか聞いてきてくれないか？お前ら特に仲良いだろ？」


薮の提案に、「俺行ってくるよ。有岡くん、前回の喧嘩の話思い出してなんかしんどそうだから」と高木が席を立つ



「伊野尾くん、おはよう。山田も、」

「おはよう高木」
「いのおちゃん！聞いてってば！誤解だから！！」


片一方はいつも通りの返事、もう片方はもはや高木のことなど視界に入れずに目の前の恋人にすがりついている

そんな山田を伊野尾はチラリとも見ず、「どうしたの？」と高木に問いかける


「いや、なんか2人、喧嘩？とかしたの？」


「してないよ？こいつが勝手に忘れてて勝手に騒いでるだけ」

「やだ！こいつとか言わないでよ。だから違うんだって！誤解だよ！！」

身長差から、高木と伊野尾の会話を下から見上げながらキャンキャン訴えてる様子は子犬のようで、「やま必死だなぁ」と中島が温かい目を送る


「伊野尾くん、山田が誤解だって言ってるのちゃんと話聞いてあげた？」

「聞いてないよ。記念日忘れるやつの話なんか聞きたくない」


「だから誤解だって！【初めて手を繋いだ1年記念日】は昨日じゃなくて明日なんだって！」




「初めて手を繋いだ記念日…？？」

八乙女が復唱した

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