▽ 堕ちる ページ9
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あの日目が覚めたらAはいなかった。
そもそも目が覚めたのは頭痛のせいだった。
別に僕は偏頭痛も何も持ってないし、事後の倦怠感も少しはあったけど頭痛の方が強かった。
重い頭を起こす気にもなれなくて隣にいるはずのAを抱き締めようと手を彷徨わせればそこにあるのは冷たい空気と冷たいシーツの感触。
シャワーにでも言ってるのかな、と耳を澄ませてみるも自分の呼吸音が部屋に響くだけで他の音何も聞こえない。
嫌な予感が脳内を駆け抜けて頭が痛い事すら飛んで行きそうな勢いで僕は飛び起きた。
床に散らばっているはずの僕の服は綺麗に畳まれていて、Aの洋服なんて何一つなかった。
残っているのは微かに香るAの香り。
丁寧に畳まれているスウェットを履いてTシャツを着、フラフラする足でシャワー室、トイレを探した。
でも探している人はどこにもいない。
携帯を開いてAのトークルームを見れば無くなっていた。
ただでさえ最近は連絡が取れなかったのに、僕の送ったメッセージに既読だけがついて、いなくなっていた。
一番上にあるはずの、ピンで止めてあるAとのあるはずのトークが。
消えていた。
“退出しました”という文字が僕をクラクラさせる。
どういう事か分からなくってAの電話番号にかけてみるも無機質な機械音しか耳に入ってこない。
必死に思い出すのはAと話した最後のこと。
僕がAとの将来を話した瞬間Aの顔が泣きそうに歪んで、段々とその歪んだ顔がボヤけてきて、
話してる内に体が重くなって、隣にあったはずの温もりが離れて行った気がして、
最後に、“愛してる”って言葉が耳に届いて、
僕もだよ、と言いたいのに言えなかったから微笑んだんだ。
それでなぜか、ものすごく悲しくなって───
……あぁ、なるほど。
床に落ちているAから渡されたペットボトルが視界に入った。
少し残る中の水……多分だけど。
睡眠薬が入ってるんだ。
Aなら持っているはずだ。
そうか、飲まされたんだ。
呆然と部屋を見渡すと机の上に1枚の紙切れが置いてあることに気がついた。
“片寄さんへ”
その手紙を読めばAの声が聞こえてくるような気がして手に取った。
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ゆう(プロフ) - 最高です。悲しいお話でしたけど、小説として、一つのストーリーとして、偉そうかもしれませんが世界観に浸りながら読むことが出来ました。本当に素晴らしい物語です。これからもリピして読みたいので、残し続けて下さい。 (2018年4月10日 21時) (レス) id: 83a6724a5f (このIDを非表示/違反報告)
片寄美弥(プロフ) - どんな作品でも応援してます!!!とっても楽しみです!! (2018年4月7日 20時) (レス) id: 4ae5dd86b4 (このIDを非表示/違反報告)
ミルクティー(プロフ) - バッドエンド是非みたいです!楽しみにしてます!! (2018年4月7日 19時) (レス) id: 65d03deaea (このIDを非表示/違反報告)
りんご(プロフ) - バットエンドも読みたいです!!! (2018年4月7日 17時) (レス) id: 484fed5b4d (このIDを非表示/違反報告)
こばしり。(プロフ) - バットエンド…。作者さん、色々な意見がありますけど自分がやりたいようにすれば良いと思いますよ! (2018年4月7日 16時) (レス) id: 430ac03c68 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ラベン | 作成日時:2018年4月3日 22時