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『轟焦凍のお母さんを裏切ったっていうのは？』
「うん、エンデヴァーが結婚する時に初めて知った。私とあの子は親友だったから、ずっと連絡とってたのに。あの子は心配かけさせまいと私に内緒にしてたんだ。ずっと、悔やんでた。私が逃げたからだって」
伝えなかったのは轟焦凍の母自身の判断。確かに母さんは逃げた、だけれどそれを知っていたら伝えられていたらどうしていただろうか。
そんなこと、今更考えても意味がないことくらいわかってる。それでも、考えざるを得ない。
「それでも、あの子は私に恨み言を言わなかった。入院した時に、あなたを連れてお見舞いにも行ったんだけど、泣くのは私だけで、あの子はそんな私を許してくれた。本当なら私だったのに、」
母は泣きそうな顔で、そう呟くように告白した。正直、悲しそうな顔をする母も、つらそうな顔をする母も初めてで、なんとも言えなかった。
ただ、私は安心した。いま目の前にいる母は、私の知っている母だ。
「私、ヒーローなのになぁ」
『………その人は、母さんにとってのヒーローなんだね』
「……うん。自慢のヒーローだよ」
母はいまもお見舞いに行っているそうで、少なくとも毎月病院へ足を向けているそうだ。そこで轟焦凍の姉や兄にも会うことがあったらしい。
轟焦凍以外は、今の母の思いを知っていた。ただあいつはまだ自身の母親と向き合えていないらしく、その事実を知ることもなかった。
『そっか。だからあいつ、知らなかったから私を目の敵にしてたのか』
「ごめんね、A。巻き込んじゃって、本当なら大人同士で精算しなきゃいけないことだった。なのにあなたにも、焦凍くんにも背負わせてしまって、悪い大人だね」
そこまで語った母は、帰ろうか、と私の手を引いて帰途へ着いた。
久々に繋いだ母の手は何も変わってなくて、やっぱり、どんなにつらいことがあっても前を向く母に、私はまた憧れを抱いた。
『ありがとう、お母さん』
「ううん、おめでとう。A」
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