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目が覚めたのは救護室のベッドの上。真っ先に視界に入ったのはこちらを覗き込む不安そうな兄の顔だった。
『まさ、かずにいさん』
「おはようA、気分はどうだ？」
『…………なんも、思えない』
「そうだよな」と兄さんは無理矢理笑う。シスコンな兄のことだ。気が気じゃないんだろう。それでも私のことを思って笑ってくれてるんだと思うと申し訳なくなった。
『…負けちゃった』
「うん、がんばったな。すごかったよ。母さんみたいだった」
『………うん、』
いつもなら、喜んでたその言葉も、今は胸が苦しい。負けた。負けてしまった。心の底から沸きあがる悔しさと不安。これからどんな顔して家に帰ればいいんだろう、
「………轟くんと、なんかあった？」
『知って、るの？』
「これでも長男だからね、家のことは末っ子より詳しいはずだよ。母さんは俺にだけは弱音吐くから」
『………そう、なんだ』
初めて知った。いつも笑顔で、泣き言は言わない母さん。強い女性。私のヒーロー。そんな風に思ってたのに。
今日で十何年間培ってきた思い出や知識、憧れ、そんなものが崩れていく。
「あの人は、ずーっと後悔してんだ。自分がした事。結果的に起こってしまった不幸。母さんと、轟さんは従姉妹で親友だったから」
兄さんの話を黙って聞く。従姉妹で親友、ならなんで、なんでこうなってしまったんだろう。愛する息子に、煮え湯を浴びせるまで追い込まれて、そのことを母さんも知ってるはずなのに。
「でも、母さんはずっと前を見てるよ。後悔ばかりじゃない」
『…どういう意味？』
「それはAが母さんに聞きな。母さんも、Aを待ってるから」
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