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俯いて言ってるから、彼が今どんな顔をしてるのかも分からない。視界の端に映る、指先まで真っ赤になった阪本の手が、ギュッとフローリングを握った。
｢これさ、何してんの？｣
あの時勢いで、家誘うようなことして悪かったけどさ。
もう最近、辛いよ。
あんたが酔って泣きながら愚痴吐いてるとことか、
私の言うことにゲラゲラ笑ってるとことか、
寝言で元カノの名前呼ぶとか、
正直、マジで辛い。
聞いてられへんし、見てられへんねん。
もう、あの時の、普通のようには。
阪本｢なにって……｣
｢これ以上、この変な関係続けたくない｣
鍵、やっぱ返して、と手を突き出した。こんな時に気も効かせて、涙なんてものは出てくれないらしい。
薄目で見る、阪本の顔は酷く歪んで見えた。私、今シラフなんだけどな。
｢最低なわがまま言ってごめんやけど。先に裏切ったのもごめん、そういう目で見てたのを黙ってたのもごめん、阪本の気が済むまで謝るから、早く私の前からいなくなってほしい」
阪本｢それ、マジで言うてんの｣
数拍置いて、阪本はそれだけ言った。
阪本のデフォルトの顔は、眉間に皺を寄せた不機嫌な顔だけど、今はそれよりも圧倒的に翳りがある、暗い顔。
私もこんなん言うの辛いねん。わかってるやろ？
言うやん、男女の友情なんて成立せえへんねやって。
それがほんまやっただけやねんって。
｢マジで。｣
阪本｢……あっそ｣
そう言って阪本は鍵をポッケから取り出して机に叩きつけた。それを見るだけしか出来ない私に、腹が立って奥歯をかみ締めた。
黙ってそのまま荷物を持って、乱暴に私の家から出ていった。ガチャン、と虚しく閉まった音を合図に、全身の力が抜けた。
｢言えた……！あはは、言ったった……！｣
言ったった！！！と、やけくそになって大の字に寝っ転がりながら叫んだ。
今更溢れて止まらない涙に、もう、笑うしか無かった。
傷は癒えたが、今回の件で思いっきり古傷抉られてしまって、今度は修復不可能なところまで来てしまったらしい。
1年もあんな関係を続けていたことに驚きを隠せない。今晩は何を作ろうかな、とボーッと思いながら、スーパーを徘徊する。
立ち直れるはずもなく。密かに恋心を抱いていたところには、ほんと、キモイとしか言いようがない。
あれだけワンチャンないと言っていたから余計に。さすがに飢えすぎている。
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作者名：流 | 作成日時：2024年3月3日 22時
