▶︎ ページ3
｢あ……、また鍵閉め忘れてる｣
危ないから、絶対鍵は閉めてって言ったのに。
何度もあかんでって注意してるのになあ。
そういうところが振られた原因ちゃうの。
ドアノブに手をかけると、予想していた重い感覚がない。
某ドキュメンタリー番組で見るような、実は空き巣がまだ居て……というような、ある種ドラマチックな展開では、無い。
中にいる人物は、大抵予想が着く。
ガチャ、とドアノブをそのまま回して、中に入る。
今年の春から何度見た事か、玄関に乱雑に並べられている、くたびれたスニーカーを横目に、
鍵閉めろって言っただろ〜とそのまま廊下を歩く。
阪本｢あ、わるい、｣
ぺこり。
そんな擬音が似合うほどに、取ってつけた謝罪をしてまたグラスに注がれたハイボールを煽る。
これは多分、というか絶対酔ってるな。
はあ、と出たため息を分散させて、彼の手にあるグラスを奪い取った。
｢ぁ……｣なんて、弱々しい声出して。可愛いなんて思ってやらない。
｢これ、何杯目？｣
阪本｢……覚えとらん｣
｢自分家でやるのはいいけど、私の家で泥酔するまだ飲むのやめろって言ったよな？」
阪本｢言ったっけ、｣
｢言った。これで終わり｣
阪本｢ぇーーーーやめてくれ！コップ返してくれ〜！｣
｢じゃあとっとと自分の家に帰って飲み直したら。仕事帰りに酔っ払いに付き合ってられへん」
阪本｢ケチ｣
目の前で子供のように拗ねるのは、友人の阪本。
どうしてこの家で酒を飲んでいるのか、それには少し長くなる事情がある。
近くのスーパーで、たまたまばったり出会った私たち。
うわ〜！なんて歓声を上げながら、今何してるのか、とか、どこに住んでるの、とか、買い物を続行しながら話した。
一周し終わって、彼のカゴを見たらほとんど酒の缶ばっかり。あと些細なおつまみ。
｢……まさか、これだけ？今日の夜、ご飯、やんね｣
阪本｢？うん。俺、料理せえへんし｣
｢健康に悪いって、こんなん……笑」
阪本｢そういうお前はえらい買い込んで｣
｢買い込んでって、これが自炊の普通やし｣
阪本｢ふーん。自炊してんの、えらいな｣
｢よかったら食べに来る？」
盛り上がった会話に、つい口がついて出た言葉だった。
その言葉に特に意味なんてない。まさか、ワンチャン狙うつもりもなかった。
そう思われている可能性に気づいて、私の泳ぎきった目を見つつも、阪本はその言葉にYESを返した。
少しニヤついてたから、私がそういう……ワンチャンあるかも？風に思っている、と、思っていたのかもしれない。
でも、その日の夜は本当になんにも無かった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 224人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：流 | 作成日時：2024年3月3日 22時
