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秋定の顔を見上げた。追い打ちをかけるように何かを言おうとしたようだったが、私の顔を見てギョッとして止まった。
きんちゃんも、その様子を固唾を飲んで見守っているように見えた。
｢まだ支配人には上京すること言うてないんやんな｣
きん｢え？……あ、う、うん。今週中にはまあ、……って気持ちやけど……｣
｢わかった。じゃあ、明日中に返事する。｣
きん｢え、え？え？明日中にって……｣
ちょっと1人にして、と私は立ち上がった。ただならぬ空気を察したのか、後ろでふざけていた3人組は黙ったままだ。
秋定｢Aごめ……｣
｢ありがとう秋定｣
秋定｢へ？｣
｢私、みんなに甘え過ぎてたかも知らん。ちょっと、もう一度真面目に自分のこと考えてみる｣
東京進出おめでとう、あんたらならあっちいっても大丈夫やわ、と前を見たまま振り返らずに言った。
あんなにいつも騒がしい楽屋が、静まり返ったように思えたのは、いつになく私が真剣になったからかもしれない。
東京進出。
私がその言葉に異常にビビっているのは、自分の芸への自信のなさもあり、日々こなしている舞台の数もあり、メディアの露出具合もあり……。
ビスブラみたいに賞レースで結果を残した訳でもないし、
滝音みたいに全国ツアーをした訳でもないし、
kentoみたいにヒットする公演をたくさん主催できた訳でもない。
そんな大阪ですら中途半端なやつが、東京に行ったって、一体何が出来るというのだ。
何の志も知名度もないやつが行ったとして、それは大阪で一からやるのと同じだ。しんどい上に虚しいし、メンタルが削られる。
いつもの非常階段で腰掛けてため息をついた。
将来のことを考えるとどうも鬱になる。
私の心のネガティブな部分が、根から染み出してくるから。
秋定の言葉が頭をずっと回って、かと言って主戦場を離れたとして一体私に何が出来るというのだ……。
ぐるぐる考えながら非常階段から降りて、劇場のビルに入る。薄暗い廊下を歩く度に、不安が募る。
"そろそろAが見送られる側になってもええんちゃうの？"
秋定はいつもマイペースでデリカシーがないけど、ああやってみんなが言い難いことをスパンと言ってくれる。
今一度自分のやらなきゃならないことを見直すのには丁度いい。感謝せねば。
大東｢おはよっすぅ｣
｢あ、おはよう｣
いつの間にか楽屋にいたみたいだった。大東がこちらにノールックで挨拶をする。
しかし私の返事を聞いて、ピクッと動きを止めてこちらを訝しげに見た。｢なんか、落ち込んでますのん？｣。
すごい観察眼。……というか洞察力？
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作者名：流 | 作成日時：2024年3月3日 22時
