もしの話 ： kento fukaya ♦ ページ14
kento｢わーありがとうございますー！｣
横で猫かぶった甘い声を出して対応をしているkentoを盗み見た。
はあ、と思わず出そうなため息を慌てて飲み込み。ニコリ、と誰にするでもなく微笑む。
現在私がサボテンのように突っ立っているのは、マンゲキのロビーの手売りコーナー。
もっと若手の時とか、コロナが大流行する前はYESシアターの前で手売りをしていたことを思い出す。
そんな空想ができるぐらい、私の目の前には客が居ない。つまりファンが居ないのだ。
弱肉強食のお笑い界……こうまでも人気の差が愕然としていると、少し落ち込むまである。
私も今をときめく33期生であるというのに、同じピン芸人のkentoにもこんなに差を開かれるなんて……。
悔しい上に、羨ましい。
私だってキャーキャー言われて写真撮られたいし、サインだって描きたいし、お話したい。
tiktokでゴリゴリに加工した歌詞動画作られたいし、妄想DM会話動画だって作られたい。
……いかんいかん、かなり欲が出てしまっていた。
次に出るライブの手売り、kentoだけでどうにかなりそうだな。
今並んでる人数を捌き終わったkentoが、ふぅ、とため息をつきながら伸びをする。
ロビーに残っている人は、掲示物を見るとか、フライヤーを手に取って話したりとか、エレベーター横のガチャガチャを回したりとか、三者三葉だ。
こちらをみてヒソヒソしている人たちが少しだけ見える。あの人たちは多分、手売りを買うのを迷っている人たち。
kento｢そっちはどぉ？｣
｢んー？まあボチボチ｣
kentoのおかげで休めてるわよ、と後ろで手を重ねて屈伸しながら、皮肉たっぷりに言ってやった。
kento｢えー？なにそれぇー？性格悪〜い、嫌なこと言うなあ。｣
｢そう聞こえてたらごめんごめん｣
なんて会話をチョロチョロ交わしてると、あ、あのすみません、1枚……とkentoにまたファンの方が近寄る。
kento｢1枚！ありがとうございます！｣
ファン｢インスタで置きチケのDMして……｣
kento｢あー！あーみんさん！｣
ファン｢はい！え、覚えててくれたんですね、うれしい｣
なんてお熱い会話。ファンの人は嬉しいだろうなあ〜と意識を飛ばして、もはや盗み見ることすらせずガン見。
かく言う当事者たちは、2人の世界に没頭。
今流行りの、ファンの人が片手でハート作って、その半分をkentoが作って、1個のハートを作るのを、動画に撮る、アレをやってる。
いいなあーマジで羨ましい、あんなのTwitterで自慢され放題じゃん。私にも欲しいわワーキャー。
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作者名：流 | 作成日時：2024年3月3日 22時
