011 past ep.Momo ページ12
夏休みももうすぐ終わり。ねぇ、花火見に行こう！って、いきなり俺の部屋に入ってきたのは浴衣のAだった。
「は？」
「だから、花火見に行こ！」
グイグイと背中を押されて、外へ連れ出される。今日は毎年、Aと一緒に行っていた地元の花火大会の日だった。
「なぁ、花火大会の会場、こっちじゃないけど」
「いいの！ほら、始まったよ！すわろ！」
連れられて来たのは会場から少し離れた公園。俺らの地元は程よく田舎で、会場から少し離れたところで花火はきちんと見えるのだから、べつにどうってことはないのだが。佐々木と一緒に行っていたはずが、どうして？とハテナマークが飛んでいた。
「……佐々木と一緒に行ってたんじゃなかったの？」
俺はそのまま疑問に思っていたことを口に出した。
「……フラれちゃったの、さっき」
「……は？」
そんな、まさか。だって、佐々木は入学当初から、春原先輩の幼馴染ですか？あの人かわいい！って俺に言ってくるほどAにゾッコンだったはずだ。そんな佐々木が自分からAをフるなんて。付き合ったときも、嬉しそうに報告してきたアイツが……。
「最近、ずっと部活だったし、結構放ったらかしにしてたからかなぁ。先輩にとって、俺ってなんですかって言われちゃって、私、すぐに答えられなかったの」
大きな音を立てながら夜空を彩る花火に視線をうつしたまま、Aはポツリポツリと話し始めた。
「それで……、もう良いですって。たぶん先輩は初めから俺のこと好きじゃなかったんだと思います、って、言われちゃった」
ああ、半分は俺のせいでもあるのかと話を聞いて思った。佐々木とはそこまで確信をついた話はしたことがなかったものの、お互いにお互いのAへの好意はわかっていた。
「……ちゃんと、好きだったのになぁ」
Aの佐々木に対する想いも知っていた。それでいて、俺が身を引けなかったから。みんなが腫れ物を触るように俺に接するのに対して、幼馴染として、怪我した俺を気づかってくれるAの優しさに。俺が繕っていたからだ。
「ごめんね、こんな辛気臭い話して」
「いや、いいよ。泣きたいなら、泣けよ。俺、見ないから」
いつかAが俺に言ってくれた言葉をそのまま返す。静かに泣いてるAの隣に座り、花火を見る。
−−Aがすきだ。
高校生三年の夏。俺はやっと、長年の想いを自覚する決心がついたのだった。
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作者名：凛々瑚 | 作成日時：2018年3月16日 23時
