【薬屋のひとりごと】夢幻泡影【短編集】 (ページ2)

今日:5 hit、昨日:3 hit、合計:793 hit

花弁と任務ページ2

『…ふぁあ』

上質な絹の使われた着物を見に纏う女性が、気品を感じる容姿とは似ても似つかない可愛い欠伸を漏らす

「Aさま、お控えください」

それを聞いた男性が、小さい溜め息と共に漏らした小言を、女性は適当に受け流した。

何を隠そう女性は、大量の仕事に追われているのだ。それも一人で。

『元はといえば壬氏が悪いだろう、私に仕事を押し付けて消えたのだからな』

「あのお方が忙しいのを貴方様もご存知でしょう、“それ”が貴方の仕事なのですから」

高順の言う“それ”とは、壬氏の尻拭いの役目、と言うことなのだろうか。

あながち間違いではない。壬氏がどうしても処理しきれない仕事の処理が、私が帝から授かった使命だ。

ただ、この件に関しては玩具(薬屋)に気を取られて仕事に気の入らない壬氏が悪い

いつものようにこなせばここまで溜まるはずない業務量。

それを高順も承知しているようで、これ以上私を叱りはしなかった

『壬氏、早く帰らないかな』

すっかり暗くなった空へ言うが、勿論返事は来ない。

あぁ、早く終わらせてしまおう、こんな時間は

そう思い机に放り投げた筆を探しに視線を落とすと、桃色の小さな花弁が落ちていた。

花弁を拾い上げながら部屋を見回す、すると換気の為に少し開いた窓があるではないか

お前はここから来たのか。手の上の小さな花弁が破れぬよう、そっと指で撫でる

こうして触ると、思うより肌触りは良いものだ。この服とどちらの着心地が良いだろう。

そういえばこの桃色、何処かで見た。ああ、玉葉妃の身に纏う衣にこんな色のものがあったやも。

甘ったるい桃の衣も着こなす姿は、やはり妃そのものだった。

そんな私の様子を不思議そうに見つめる高順の視線には気付かない程、

Aは花弁を集中して撫で回していた。