提案 ページ8
何事も無い日々が続いていた。
それは実に平和でつまらない、私の愛する日常だった。
ここは平和で良い。
普通の生徒たちに普通の先生方がいて、普通の授業が行われている。私もこんな高校生活を送りたかった。
午後6時半、最終下校30分前を告げるチャイムが鳴る。図書室を閉める時間だった。
軽く机の上や床を掃除し、生徒が残っていないか確認する。最も、この時間まで図書室にいる者はほとんどいないが。
灯りを消し鍵を閉め、図書室を後にした。
春先のこの時間帯は、まだそこまで暗くはなかった。
ダンッ、という大きな音に驚かされた。
振り返るとそこには体育館があった。もちろん体育館はいつもそこにあるし、そこで部活が行われているのも知っていた。ただ、何部が練習しているのかまでは知らなかったのだ。
だから、興味本位で覗いてしまった。
「あっ、三枝センセ！」
聞き覚えのある声がした。そちらに視線を向けると、予想通り、そこには宮侑がいた。
おやつを貰った仔犬のような顔をしてこちらへ向かってくる。180センチを越える男にする例えではないが、そう思ってしまったのだから仕方がない。
「こんなとこで何してはるんですか？」
今度は後ろから声が聞こえた。
視線を向けると、やはりそこには宮治がいた。
「大きな音が聞こえたので、何だろうと思って」
「ああ、さっきの？アランくんのスパイクやろ」
「スパイクであんな音がするんですか？」
「せや。アランくんは強いからな」
バレーは体育でしか関わりが無かったし、スポーツに関する本もあまり読まなかったので、純粋に驚いた。
あんな音のするスパイクを拾ったりするのか。恐ろしい競技だ。「アランくん」の話をする双子は、とても生き生きして見えた。
「双子、何しとんねん」
彼らの後ろから黒い影が顔を覗かせる。「アランくんや！」なんて、侑くんの声がした。
なるほど、と納得せざるを得なかった。
アランくんと呼ばれた彼は名前の通りハーフで、身長も高く(双子とあまり変わらなかったが)ガタイも良かった。
「すんません、迷惑かけてしもて」
「いえ。すごいスパイクを打つんですね」
思ったことを言っただけだったが、彼は目を見開き驚いていた。双子の保護者みたいだな、とも思ったけれどそれは言わないでおいた。
踵を返し帰ろうとした私に、侑くんが声をかけてきた。
「センセ、今度の大会見に来て下さいよ」
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作者名：凛久 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/2594um/
作成日時：2019年2月14日 17時
