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恋はまことに影法師 ページ24

「____俺も、本気やから」



そう言った治くんの声は、いつもより低くて。
真横にあった顔が、ゆっくりと離れていく。絡んでいた指も解かれる。
俯かせていた顔を上げると、目が合う。彼はふ、と妖艶に微笑んだ。

それに、再度ドキリとさせられてしまったなんて。





「また来ます」



それだけ言い残すと、私の返事を待たずに図書室を後にした。


彼は、本当に私のことが好きだと言うのか。本にしか興味ないような、冷たい女が。
こんなこと、あっていいのか?
いや、いいわけがない。生徒に口説かれるなんて、それに心を揺さぶられるなんて。



(……手、大きかったなぁ……)



すーっと自分の手を撫ぜる。彼に触れられた時はくすぐったかったのに、自分で触れるとやはりなんてことなくて。
思えば、異性に手を握られるのは初めてだったような。
その相手が、あろうことか生徒なんて。

胸に手を当てる。まだ鼓動はいつもより速い。
自分を落ち着かせようと深呼吸する。まずは思考をクリアにするべきだ。彼らに主導権を渡してはいけない、絶対に。





「三枝先生」



急に声をかけられ、せっかく落ち着きかけていた鼓動がまた速くなった。

声のした方を見ると、そこにいたのは北くんだった。
ドアは治くんが閉めていったはず。ということは、ドアが開く音にすら気付けないほど、彼のことに気を取られていたのだ。



「体調悪いんですか」
「……いえ、大丈夫です。それより、何か用ですか?」



北くんと話すと、少しだけ落ち着いた。と言うよりは、高校生とは思えないほど常に落ち着き払っている彼を見てこっちも安堵したという方が正しいかもしれない。



「部室にバレーの雑誌あったんで、古本市に出せんかなと思て持ってきました」
「それは有難いです」



雑誌のバックナンバーは意外と需要があって、古書店なんかにもよく置かれている。スポーツ誌は専門外なのでわからないが、漫画やゲームの雑誌なんかはよく見かけた。
雑誌が詰まった段ボールはやはり重そうだったが、北くんは軽々とそれをカウンターまで運んだ。
大きな音を立てないように慎重に置くと、ふぅと一息ついてから、「そういえば」と口を開いた。





「そこで治に会ったんですけど、あいつここにおったんですか?」
「……ええ。荷物を運ぶのを、手伝ってくれて」



私が言うと、ならええですけど、とだけ言って、会釈して図書室を後にした。
やはり双子の世話は大変そうだな、と思った。

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作者名:凛久 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/2594um/  
作成日時:2019年2月14日 17時

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